本研究の目的は、ヒト腸内細菌叢シミュレーターを開発し、腸内細菌代謝の理解に基づいた腸内細菌叢の制御を可能にすることである。2021年度は、シミュレーションモデル構築に必要な動力学パラメータ推定ソフトウェアを開発し、論文として出版した。また、大腸菌以外の細菌の窒素代謝をシミュレーションできるように、窒素代謝シミュレーションモデルを改良した。
2019年度から新しい動力学パラメータ推定ソフトウェアRCGAToolboxの開発を開始したが、本年度に論文として報告できた。また、バイオ情報学研究会やISMBといった学会でこの成果を発表した。RCGAToolboxは欧州のバイオインフォマティクスのコンソーシアムELIXIRにも登録された。また、チュートリアル動画をYouTubeにて公開した。現在、このソフトウェアを使って、大腸菌以外の窒素代謝シミュレーションモデルを構築している。
我々は、これまでに大腸菌の窒素代謝の定量的シミュレーションモデルを構築していた。本年度は、細胞サイズ、pH、温度、膜電位などを変えることで、大腸菌以外の細菌の窒素代謝がシミュレーションできるようにモデルを改良した。原理的には、アンモニアトランスポーターなしでも細胞内pHを下げることで、環境からアンモニアをNH3の形で取り込むことが可能である。このような戦略は acid trappingと呼ばれる。Acid trapping をシミュレーションしてみたところ、いくら細胞内pH を下げてもアンモニアトランスポーターがある場合に比較して細胞内アンモニア濃度を維持するのが難しいことがわかった。このため、多くの細菌では、acid trappingを主要なアンモニア獲得戦略として使っている可能性は低いと考えられる。
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