研究課題/領域番号 |
18K18154
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
土方 敦司 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, プロジェクト特任講師 (80415273)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | タンパク質立体構造 / ミスセンス変異 / アミノ酸残基 / 構造環境 / 遺伝子疾患 |
研究実績の概要 |
ゲノム配列解析技術の進展に伴い、個人ゲノムの配列決定が容易となったが、解釈の困難な意義不明バリアント(以下、VUS)が多数見つかっている。これらのVUSの意義を理解することは、遺伝子型と表現型との間の関係性を理解するだけでなく、ゲノム変異による疾患発症メカニズムの理解に繋がると期待される。本研究では、タンパク質をコードする領域に見つかるVUSの、そのタンパク質の分子機能への影響を評価するための、タンパク質高次構造に立脚した情報解析手法の開発を目的とする。この目的のため、H30年度は、以下の点を目標として研究を行なった。 (1)立体構造中の任意のアミノ酸残基の空間的環境特徴(以下、LSE)を比較するための手法の開発を行う (2)ヒト遺伝子疾患原因変異残基のLSEの抽出および比較を行う まず、タンパク質立体構造から、特定のアミノ酸残基(基準アミノ酸残基)の周囲のアミノ酸残基の空間配置を、α炭素とβ炭素がなすベクトル情報として表現してLSEを抽出するプログラムを開発した。並行して、アミノ酸残基のLSEについて相互の類似度を算出するアルゴリズムを実装したプログラムを作成した。このことにより、任意の二残基のLSEの類似度を定量的に比較することができるようになった。 次に、ヒトの遺伝子疾患の原因タンパク質4,618個について立体構造が既知かどうかを調べたところ、2,655個のタンパク質が既知であった。それらのタンパク質に含まれる既知の疾患ミスセンス変異アミノ酸残基(10,217残基)について、上記のプログラムを用いてLSEを抽出した。基準アミノ酸残基が同じアミノ酸であるデータについて総当たりで類似度を算出した。その結果、全体の約15%のアミノ酸残基(1,626個)のLSEについて、進化的な類縁関係がないタンパク質間において類似性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、以下の2点を目標として、計画を立て実施した。 (1)立体構造中の任意のアミノ酸残基のLSEを比較するための手法の開発および(2)ヒト遺伝子疾患原因変異残基の空間配置データの抽出および比較 その結果、今年度当初予定していた目標を2つとも達成することができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
疾患変異残基の空間的環境特徴(LSE)について、定量的に比較することができるようになったので、それぞれの変異残基について、変異の機能的影響との関係についての解析を行う。いくつかのタンパク質については、網羅的な変異導入による機能解析が行われており、データも公開されている(TP53, BRCA1, STAT1, PTEN)ので、それらのタンパク質に焦点を当ててデータの解析を行い、変異の影響の大きさとLSEとの関連性について明らかにする。特に、変異の影響が大きいLSEと軽微なLSEとの間の差異に着目した解析を行う。 進化的な類縁関係がないタンパク質間に、類似したLSEが見つかったことは興味深く、また自明なことではないと思われる。タンパク質の立体構造の構築原理などとの関連性についても解析を行う予定である。
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