器官固有の形態は方向依存的な組織変形により実現される。ニワトリ前脳固有の形態は方向性を持った細胞集団の再配列による組織の異方的な伸長により実現されていることが明らかとなった。では「何が細胞に方向情報を与え、その運動はどのように制御されているのだろうか?」。これらを明らかにすることが本研究の目的である。 前年度の研究により、SHHは細胞に応力検知能を付与すること、および上皮の形態形成機構に関与することが報告されているphosphorylated myosin regulatory light chain (pMLC: リン酸化ミオシン) は前脳腹側組織においては組織の伸長方向と垂直に配向することがあきらかとなっていた。そこで、本年度は、この腹側組織でのpMLCの配向性は形態形成にどのように影響するのか?について、調査を行なった。この問いに答えるために、申請者らは前脳背腹組織の切除実験を行った。背側または腹側領域を切除し、その後の形態形成を調査したところ、驚くべきことに腹側組織は単独でも側方への組織伸長が見られ、それらは方向性を持った細胞集団運動により達成されること (自律的形態形成能) が明らかとなった。一方、背側組織では腹側組織で見られるような組織伸長はおこらなかった。さらに、SHHシグナルの阻害により、腹側組織で見られた自律的形態形成能は消失することが明らかとなった。 これらの結果と、昨年得られた結果を総合して考えると、まず、組織形状に由来する組織内応力が方向情報を生みだす。SHHは力学刺激に対する応力検知能を細胞に付与し、その結果として、前脳腹側組織では組織内応力方向と垂直に方向性を持った細胞集団運動が駆動され、前脳固有の形態が達成されることが明らかとなった。
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