本年度は,前年度までに構築したリポソーム内への1細胞レベルでの微生物封入と内部での微生物培養に関する手法を,さらに推進するために3つの研究を行なった。 1つ目に、本研究で用いている手法で作製したリポソームの安定性を評価するための物性解析研究を行なった。微生物の培養を長時間行うにはリポソームの安定性が重要であるが,本研究での手法で作製されるリポソームは,1ヶ月程度持つものもあれば数時間程度で壊れてしまうものも存在していた。この原因を探るために,リポソーム自体の物理的特徴を調べる実験を施した。本実験では2種類の作製法を用いて評価した。その結果,本手法で作製しているリポソームは,従来の方法で作成されるリポソームに比べて膜の有する表面張力が強いものと弱いものが混在することがわかり,これが1ヶ月程度持つものもあれば数時間程度で壊れてしまうリポソームが存在する原因であることを明らかにし,論文投稿の準備を進めている。 2つ目に,リポソームに機能を付加し人工細胞のように振る舞い,微生物とコミュニケーションを行うハイブリッドシステムの構築に取り組んだ。具体的には,微生物で行われている化学コミュニケーション(クオラムセンシング )を行うことができる人工細胞の構築を行い,その内部で微生物を培養するシステムの構築を現在も進めている。 最後に,リポソームの大量アレイ化を目指して,10^6オーダーでリポソームを作成するための手法開発の研究を行なった。まだ、目標値には達していないが,作成されたリポソームの物性評価も同時に進めている。 この他に,リポソームだけでなく,油中水滴内での環境微生物の増殖と検出も行い,単一のドロップレット分取にも成功し,この成果についても論文投稿の準備を進めている。また,マイクロゲルビーズ内に複数種類の微生物を封入し,複合環境による共生・競合実験研究を進めている。
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