研究課題/領域番号 |
18K18163
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
柴田 傑 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 助教 (90649550)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 身体動作 / 学習支援 / バーチャルリアリティ / 振動刺激 |
研究実績の概要 |
当初計画では,2019年度に開発したシステムを発展させ,視覚と振動刺激を組み合わせて三味線の撥の動きを模倣した動きを提示するシステムを開発し,効果を評価する計画であった.2020年度は,当初計画に従って,2019年度の予備的な実験の結果を精査し,システムの改良および評価実験を実施した. 2019年度に開発したシステムは設定された目的点に向かう方向に振動刺激を提示するシステムであったのに対し,一度目的点に到達した後に元の位置に向かって刺激を提示するように改良し,三味線の動きを模した反復動作できるようにした.改良したシステムで10人の実験参加者について評価実験を実施した.実験では,システムで提示される刺激の方向にメトロノームのリズムで腕を動かした.実験結果から,一部の実験参加者は視覚と振動を組み合わせた方がスムーズに反復動作できることが明らかとなった.本結果は,第25回日本バーチャルリアリティ学会全国大会において発表した. 三味線演奏の学習を支援するために,当初計画を一部見直し,三味線演奏において左手で弦を押さえる場所,および撥さばきの両方を視覚的に提示し,三味線の楽曲を演奏できるシステムのプロトタイプを作成した.本システムでは,三味線本体,撥,ヘッドマウントディスプレイ(HMD),演奏者の指に磁気式のモーションキャプチャのセンサを装着する.HMDには三味線のCGが表示され,左手で弦を抑える場所,右手の撥を打ち下ろす位置とタイミングをリアルタイムに表示し楽曲を演奏することができる.本成果は,情報処理北海道シンポジウム2020にて発表した. 実験は感染症に留意して進め,実験回数を分割して実施したため,当初計画にくらべ遅れがみられている.そのため,計画を延長し,2021年度は実験で得られた結果について解析し,成果をまとめる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では,2019年度までに開発したシステムについて評価実験を実施し,成果をまとめる計画であった.2020年度はまず,2019年度の予備的な実験の内容について精査し,視覚と振動を提示するシステムを改良し,メトロノームを用いて一定のリズムで腕を反復動作させる実験方式を考案した.また,考案した実験方法を用いて評価実験を実施したものの,感染症の拡大防止の観点から実験を複数回に分割して実施することとした.そのため,一部実験結果について口頭発表で公開したものの,当初計画に比べて必要な実験データの取得に時間がかかり,実験計画はやや遅れている. 実験で得られた結果について統計的な解析を施し,開発したシステムの特性と効果について明らかにする作業についてもやや遅れがみられ,現在も解析を進めている.本解析では,三味線の打ちの動作において,目的の場所に正確に撥を移動できるまでの時間を評価指標とし,提案手法によって視覚のみの提示に比べて移動時間が短くなる傾向があることが明らかになってきている.これらの成果について詳細に検討し,発表することを計画している. また,当初計画を一部見直し,三味線の楽曲を演奏するための情報を提示するシステムの開発にも取り組んだ.本システムはプロトタイプが完成し,予備的な動作実験を実施して学会で発表,議論したものの,十分な実験参加者による評価実験には至っていない.開発したプロトタイプは視覚のみを用いたシステムである.今後,本研究で提案する視覚と振動を用いた手法と統合し,より効果的な三味線演奏の習得ができるような検討が必要となる. 以上のことから,本研究は感染症拡大の影響もあり,遅れており,計画を延長して次年度も継続することとした.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,既に計測済みの実験データを可能な限り活用し,当初最終年度に実施予定であった開発システムの評価を進める.計測済のデータの一部を解析し,提案する視覚刺激と振動刺激を用いた情報提示によって,早く正確に腕の反復動作を実現できる可能性があることをすでに示している.今後は,追加で実施した実験の結果も統合し,統計的なデータの比較と解析を試みる.特に計測された実験データは正規分布によらない可能性が示されており,ノンパラメトリックな比較手法の導入を検討する.実験参加者や実験条件の追加が必要となった場合には,十分な感染症対策を施したうえで実験を実施し,データを補強する.また,システム開発に用いた振動子や治具の振動の特性などのシステムの特徴について,必要に応じて実験参加者を必要としない関連実験によって明らかにする. データの解析による評価結果およびシステムの特性の計測結果は,学会発表または論文として広く公表し,議論を深めることを目指す. 2020年度にプロトタイプを開発した三味線の楽曲を演奏するための情報提示のシステムについて改めて検討し,効果的な実装方法について議論する.本システムは主に視覚を用いて情報を提示するシステムであるので,本研究の成果を踏まえ,視覚と振動を組み合わせた情報提示の方法についても議論する. 感染症の状況が不透明であることから,既に計測したデータの解析を中心に,実験は必要最小限にとどめて研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症の拡大防止のため,移動が制限されたことから,実験環境の整備に遅れが生じた.また,実験参加者を集めることも難しく,実験を分けて実施したことからも遅れが生じ,次年度使用が発生した.すでに計測したデータの解析を中心にすすめる計画であり,必要最小限の実験にとどめる. 次年度では解析したデータをまとめて発表するための論文投稿料および学会発表の参加費に使用する計画である.
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