本研究は、親潮域の植物プランクトンブルーム発生時に海洋表面に蓄積すると考えられている糖類と脂質の濃度やその支配要因を明らかにすることを目的としている。 研究最終年度である令和2年は、新型コロナウィルスの影響により調査航海に参加することができなかった。調査航海で実施予定であった海洋表面マイクロ層(SML)採水装置の試運転が出来なかったため、北海道石狩湾にて装置の試運転を行った。その結果、想定よりも採水効率は悪かったが、本装置でSML水を採集できることが確かめられた。一方、分析では高速液体クロマトグラフ(HPLC)で還元糖の分析を行えるように装置を立ち上げた。脂質分析は大学内のガスクロマトグラフ(GC)を使用し、脂肪酸組成と濃度について定量分析を行った。この他、室内培養実験を実施し、親潮域で優占する植物プランクトンThalassiosira nordenskioeldiiの糖類生産について評価を行った。 研究期間全体を通じて、2回の研究航海(新青丸 KS-18-6航海と俊鷹丸 SY-19-05航海)に参加し、春季親潮珪藻ブルーム期のSMLとその直下の海水を採水した。本研究において、春季親潮珪藻ブルーム期の糖類とクロロフィル-a(Chl-a)濃度は一般的にSML直下の水よりもSMLにおいて高まることが示された。一方、脂質濃度は観測点により濃度が大きく異なっていた。また、SMLとその直下で植物プランクトンの種組成がことなる場合があることが示された。本研究により、春季親潮域におけるSMLの植物プランクトン現存量、糖類、脂質濃度などが示された。SMLにおけるこれらの物質の蓄積は海洋―大気間の物質交換に強い影響を与えると考えられているため、ブルーム期には植物プランクトンによる生産性が高まる一方で、大気からの二酸化炭素の溶解速度が見かけ上低下している可能性が考えられた。
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