本研究は地下圏における「結晶性酸化鉄を還元する新規微生物」を対象とし、これまで解明が困難であった嫌気環境中の炭素・エネルギーフラックスの中核を担う未知微生物群の実体を、研究代表者の独自技術で解明しようというものである。 〔課題1〕結晶性酸化鉄を還元する微生物の細胞外への電子伝達メカニズムの解明において、研究代表者がすでに分離培養に成功していた、新規な結晶性酸化鉄を還元する微生物6種を対象として、それらのドラフトゲノム解析を行った。それぞれのゲノムアセンブルの結果として、2から9つのコンティグが得られた。AOP6株については、ギャップ領域の配列を決定して全ゲノム配列の取得・解析まで達成することができた。AOP6株は細胞外電子伝達の主要な機構として知られるシトクロムcや導電性ナノワイヤーと推察される線毛遺伝子の保有していた。 〔課題2〕地下圏で主要な嫌気酢酸代謝を担う未知微生物群の網羅的な同定において、5年以上にわたり集積培養を続けていた地下圏サンプルにおいて、酢酸の安定同位体を用いた高感度SIP(stable isotope probing)実験に供するため、鉄還元の有無や集積微生物を16S rRNA遺伝子を対象とした次世代シークエンサー解析による培養系の選定を行ない、培養系を絞り込んだ。 〔課題3〕地下圏において嫌気酢酸代謝を担う中核微生物群の高度集積化と分離培養において、研究代表者が5年以上にわたり集積培養を続けていた150培養系からの新しい鉄還元菌の分離培養を試みた。新規な鉄還元菌が集積されている30の培養系を対象として、酢酸と溶解性鉄での限界希釈培養および共存する主要な微生物が利用できないと想定された炭素源(糖類)と溶解性鉄での培養系も用意し、希釈培養を複数回実施した結果、Firmicutes門に属する2種の純粋培養に成功した。
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