研究課題/領域番号 |
18K18185
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
佐藤 知紘 国立研究開発法人情報通信研究機構, テラヘルツ研究センターテラヘルツ連携研究室, 研究員 (60774627)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地球温暖化 / 衛星リモートセンシング / 炭素同位体比 / リトリーバル解析 |
研究実績の概要 |
近年の地球規模の温暖化の将来を予測する上で、陸域・海洋・人間活動等のCO2排出や吸収の収支を理解することは重要であり、CO2の炭素同位体比(delta13C)はその強力な指標である。本研究では、delta13Cのグローバルな振る舞いの理解のため、12CO2と13CO2のスペクトルを高感度に取得するGOSAT衛星リモセンデータを使用し、従来は不可能とされていた衛星リモセンによるdelta-13C導出を目的とする。 GOSAT衛星リモセンでは、12CO2、13CO2のスペクトルから放射伝達理論を用いた解析(リトリーバルと呼ぶ)により各存在量を推定する。2018年度は、このリトリーバルアルゴリズムの最適化に着手した。まずは12CO2と13CO2の100倍の存在量比により生じ得るカラム濃度導出時の高度情報の不均一さによる影響の検証、さらにリトリーバル解析で鍵となる先験値の最適化を実施した。2019年度は、2009~2014年のGOSAT観測データに対してリトリーバル処理を実施した。衛星リモセンの長所であるデータ量が豊富であることに着目し、時系列フーリエ急数展開による季節周期性を考慮した統計的手法による地域ごとのdelta-13C代表値の算出方法を確立した。 2020年度は、delta-13Cデータに生じているバイアスの調査を行った。その中で最も大きく、まだ未解決であるものが太陽天頂角によるバイアスである。delta13Cと太陽天頂角は互いに緯度や季節に依存する値であるため、非直接的な原因によって互いに相関関係が確認できることは問題ない。実際、温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の地上観測値によるdelta-13Cと太陽天頂角との間の相関係数は-0.66である。しかし、現状のGOSAT観測データによるdelta-13Cと太陽天頂角の間の相関係数は-0.90と非常に大きい。これはdelta-13Cデータの中に太陽天頂角によるバイアスが生じていると考えられる。このバイアスを正確に除去する手法を確立するため、研究期間の延長を申請した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度は、本研究で最も重要となるリトリーバルアルゴリズムの最適化に着手し、12CO2と13CO2のリトリーバルにおける高度情報の不均一さによる影響が無視できるほど小さいことを確認した。さらに、衛星リモセンにおける同位体比リトリーバルにおいて重要となる先験値の最適化も実施し、リトリーバルアルゴリズム最適化の理論的要素を完了した。2019年度は、2009~2014年のGOSAT観測データに対してリトリーバル処理を実施し、衛星リモセンの長所である豊富なデータ量を最大限活かすための統計的アプローチ手法の開発を実施した。観測データサンプリングの不均一さによる影響を最小とするために、時系列データのフーリエ級数展開により季節による周期性を取り除いて近似する手法を開発し、WDCGG地上観測データとの比較により検証した。 2020年度は、以上の結果を踏まえて解析したdelta13Cのデータに生じるバイアスを調査し、その中で最も大きな太陽天頂角によるバイアスの除去を以下の方法で試みた。赤道域は季節による変化が非常に小さく、WDCGG地上観測によるdelta13Cデータには季節依存性は確認できない。一方、GOSAT観測データによるdelta-13Cには季節による周期的変化が確認できており、これは太陽天頂角によるバイアスと考えられる。そこで、南緯20度から北緯20度までのデータについて、WDCGG地上観測によるdelta13Cデータを正解値、GOSAT観測データによるdelta-13C及び太陽天頂角データを入力値とする回帰モデルを作成し、このモデルによるバイアス補正を試みた。しかし、この方法では、赤道域以外の中緯度帯において本来確認できるはずのdelta-13Cの季節依存性が確認できなくなってしまい、太陽天頂角によるバイアスを適切に除去することはできていない。追加での解析及び検証が必要であり、進捗状況を「3. やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までに確認しているGOSAT観測によるdelta-13C値の太陽天頂角によるバイアスの適切な補正方法の確率を引き続き実施する。なお、先行研究より、特に北半球中緯度ではdelta-13Cに強い季節依存性があることは確認されており、GOSATデータから算出したdelta-13C値が太陽天頂角に依存することは自然であるという見解もできる。しかし、赤道域のWDCGG地上観測の中にはdelta-13Cの季節依存性が弱い観測点も存在し、その上空のGOSAT観測から算出したdelta-13C値にも太陽天頂角依存性が確認できることから、少なからずGOSAT観測特有の太陽天頂角依存性が生じていると考えられる。 2021年度は、放射伝達モデルから計算した疑似スペクトルを用いて、シミュレーションベースでこの太陽天頂角依存性を定量化し、GOSATデータから太陽天頂角によるバイアスを取り除く。その上で、2019年度に確立した統計的アプローチにより地域ごとのdelta-13Cを導出し、delta-13Cグローバルマップを世界で初めて明らかとする。本研究が提供するdelta-13Cのデータは、相対的に人為起源のCO2排出が多い地域とそうでない地域などを特定することが可能となり、世界規模で地球温暖化対策を推進するための科学的なエビデンスとなる。
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次年度使用額が生じた理由 |
リトリーバル解析についての研究打ち合わせのため、ドイツ・ハイデルベルグ大学への出張を予定していたが、世界的なコロナウィルス流行、その感染防止の理由からキャンセルとなり、研究に遅れが生じた。コロナウィルス流行が収束すれば同目的の出張を実施する予定である。しかし、パンデミックから1年が経過した現在においても収束の兆しが見えないことから、計算機のリソースを増加し、シミュレーション速度を上げることで今年度目標の達成を目指す。
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