近年の地球規模の温暖化の将来を予測する上で、陸域・海洋・人間活動等のCO2排出や吸収の収支を理解することは重要であり、CO2の炭素同位体比(delta13C)はその強力な指標である。本研究では、delta13Cのグローバルな振る舞いの理解のため、12CO2と13CO2のスペクトルを高感度に取得するGOSAT衛星によるリモートセンシング(リモセン)の観側データを使用し、従来は不可能とされていた衛星リモセンによるdelta-13C導出を目的とする。 GOSATでは、12CO2、13CO2のスペクトルから放射伝達理論を用いた解析(リトリーバルと呼ぶ)により各存在量を推定する。2018年度は、本研究で最も重要となるリトリーバルアルゴリズムの最適化に着手し、衛星リモセンにおける同位体比リトリーバルにおいて重要となる先験値の最適化を実施した。2019年度は、2009-2014年の観測データに対してリトリーバル処理を実施し、衛星リモセンの長所である豊富なデータ量を最大限活かすための統計的アプローチ手法の開発を実施した。その結果を温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)の地上観測データとの比較により検証した。2020-2021年度は、delta-13Cデータに生じている太陽天頂角との依存性を検証し、delta-13Cと太陽天頂角との間の高い依存性(相関係数-0.90)を解消するため、リトリーバルで用いる12CO2の波長範囲を変更し、12CO2と13CO2の導出感度の高度による不均一を解消した。2022年度は、この結果を用いて、本来の目標であるdelta13Cのグローバル分布を導出した。2023年度は、更なる高精度化を目的に、WDCGGの観測データを教師データとして機械学習モデルを構築した。GOSATリモセンデータから機械学習により導出したdelta13CとWDCGGの観測値との差は、RMSE(Root Mean Squared Error)で0.23、RMSPE(Root Mean Squared Percentage Error)で2.57%まで減少した。
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