研究課題/領域番号 |
18K18187
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
岩崎 晋弥 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 特別研究員(PD) (70751006)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 南大洋 / 炭酸塩堆積物 / 海洋炭素循環 / 最終氷期 / 深層水循環 / 浮遊性有孔虫 |
研究実績の概要 |
本研究はマイクロフォーカスX線CTスキャナによる浮遊性有孔虫の殻溶解測定を用いて、南大洋における最終氷期以降の深層水炭酸イオン濃度変動を定量的に復元し、大気二酸化炭素濃度の急激な上昇に重要な役割を果たしたと考えられている南大洋(太平洋セクター)における海洋炭素循環メカニズムの解明を目的としている。そのために平成30年度は(1)炭酸塩溶解指標と深層水炭酸イオン濃度の換算式の構築および(2)深層水炭酸イオン濃度変動の復元取り組んだ。研究には所属研究機関が所有する堆積物コア試料(MR16-09_leg.2航海で採取)の中から4本のマルチプルコアおよび3本のピストンコアに加えてドイツのAlfred Wegener研究所が所有する4本のマルチプルコア試料を利用した。従来の炭酸塩溶解指標である有孔虫殻重量を測定したのち、所属研究機関においてマイクロフォーカスX線CTスキャナにより有孔虫1個体ずつの殻溶解度を定量的に測定した。マルチプルコア試料の分析結果を元に殻溶解度と現場深層水の炭酸イオン濃度を比較することで深層水炭酸イオン濃度の換算式を構築した。またピストンコア試料の分析結果を換算式に適用して最終氷期極大期(約2万年前)以降の深層水炭酸イオン濃度変動を水深別に定量的に復元した。11月からはAlfred-Wegener研究所(ドイツ、ブレーマーハフェン)におよそ2ヶ月間滞在し、ピストンコア試料の詳細な年代モデルの構築のため、放射性炭素年代測定を行った。これらの結果から最終氷期極大期の深層水炭酸イオン濃度が一時的に現在よりも高くなっていたこと、その後の退氷期に低下したことが明らかになった。これらの成果は、南大洋が二酸化炭素の放出域として機能していたことを示唆するものであり、そのメカニズムを理解する上でも極めて貴重なものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた(1)炭酸塩溶解指標と深層水炭酸イオン濃度の換算式の構築および(2)深層水炭酸イオン濃度変動の復元に計画通り取り組み、有益な研究結果を得ることができたため、本研究の進捗状況は概ね順調であると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
研究開始当初は、浮遊性-底生有孔虫の放射性元素年代測定による深層水循環年代の復元を予定していたが、分析に必要な量の底生有孔虫の拾い出しが困難であることが2018年度中の研究で明らかになったため研究計画の調整を行う。そこで今後はピストンコア試料の年代モデルのさらなる高精度化に取り組む。そのために他研究機関に放射性炭素年代測定を依頼し、現在手にしている測定値とのクロスチェックを行う。また最終氷期以降だけではなく、それ以前の氷期ー間氷期サイクルにも着目し、これまでの研究で明らかになった深層水炭酸イオン濃度の急激な変動イベントが同様に起こっていたのかを検証する。そのために所属研究機関が所有するコア試料のさらなる分析だけではなく、2019年度実施される南大洋掘削航海(IODP Exp.383)に参加し新たな研究試料を入手する。さらに本研究の成果公表として国内外の学会において積極的に研究発表を実施するだけではなく、これまでの得られた研究成果について論文にまとめ、国際誌への掲載を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度中の研究活動において研究費を当初の予定よりも節約できたため、次年度使用額が生じた。そこで2019年度に行う予定の他研究機関における依頼分析費用の一部に充当する。
|