研究課題/領域番号 |
18K18188
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
磯部 紀之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学プログラム), ポストドクトラル研究員 (10802986)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 深海堆積物 / 有機物 / 抽出 / 溶解 / 再生 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、深海堆積物中にどのくらいセルロースが含まれているかを正確に定量することにある。そのためには、堆積物中からセルロース溶剤によりセルロースを抽出する必要があるが、種々の実験や前年度の結果から、2019年度は以下2点を検討する必要性が生じた。 1点目は、簡便でハンドリング中のロスが少ない脱塩手法の開発である。当初はフィルター濾過や遠心分離、透析による脱塩を想定していたが、最低でも1キロ以上ある堆積物を処理するには不適切であった。そこで種々の検討の結果、超純水中でのデカンテーションが本研究の試料には適していることを明らかにした。 2点目は、塩などの無機系夾雑物が存在しない場合でも、セルロース溶剤によりセルロースを100%抽出ができないケースがあることを確認したところにある。その原因を検討した結果、セルロース溶剤の溶解能が貧弱である場合や、セルロースの分子量が大きすぎる場合などは、100%量の抽出ができないことがわかった。この結果は査読付き国際学術誌に投稿済みである。 また、それ以外の主たる研究実績としては、堆積物試料(セルロース量が少ないと考えられる西太平洋の深海平原、セルロースが豊富に存在していると想定される相模湾・湾央部)の採取を2019年度の航海で行うことができた。さらにセルロースと同様の構造多糖であるキチンにも同様の抽出方法を確立すべく、キチンを選択的に溶解する溶剤の検討を行い、その成果の一部を査読付き国際学術誌に投稿し、受理された。くわえて、溶解したセルロース誘導体が塩の存在で挙動を変化させることを突き止め、その成果の一部を査読付き国際学術誌に投稿した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では想定外であった技術的障壁を取り除くことができ、また、学会発表や投稿論文によるこれまでの研究成果の公表も順調に進展しているため。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、2020年度の研究進捗には遅れが見込まれるが、2019年度に確立した脱塩手法を2018・2019年度に採取した実深海堆積物サンプルへと適用する。また、実際の運用にあたり困難が生じた場合は、プロトコルの見直しを都度行い、最適な抽出プロトコルを確立する。将来的には実深海堆積物のサンプル数(海域・深度)を増やし、日本近海におけるセルロースの分布量をマッピングすることを目指す。このようにして得られる知見に基づき、これまで不明であった深海生態系におけるセルロースが果たす役割の一端を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響により、参加予定であったアメリカ化学会や木材学会などの学会が中止になったため。次年度使用額はアメリカ化学会や木材学会など国際・国内学会への参加費用として使用する予定である。
|