研究課題
2021年度は、以下の2項目について、下記の通り、研究を進めた。(1)溶存有機物(DOM)の分子サイズ別分画濃縮:限外濾過と固相抽出を組み合わせ、環境水からDOMを分子サイズ別に分画濃縮するための手法開発に取り組んだ。琵琶湖湖水試料について、30kDaの限外濾過膜で高分子DOMを濃縮し、透過液の固相抽出(PPL樹脂)で低分子DOMを濃縮した。それぞれ、40~50%程度、60~70%程度の回収率で、無機窒素をほぼ除去した濃縮DOM試料を得られた。炭素ベースでmgオーダー(窒素ベースで100μgオーダー程度)の試料量が回収でき、高精度な窒素同位体比測定が可能になった。スケールアップすることで、アミノ酸分子レベル窒素同位体比等の詳細な測定も可能と見込まれる。(2)DOMの分子サイズ別の分解特性解明:琵琶湖湖水を用いた長期有機物分解実験を行い、サイズ排除クロマトグラフ-全有機炭素計(SEC-TOC)分析から、高分子DOMと低分子DOMそれぞれの生分解特性を調べた。従来、水圏有機物の分子サイズと生分解性の関係については、「サイズ-反応性連続体モデル」(比較的易分解な高分子DOMが微生物に分解を受けて、難分解な低分子DOMに徐々に変換されていくとするモデル:Amon & Benner, 1996)が広く受け入れられてきた。しかし、本研究の実験からは、従来のモデルでは説明できない実験結果が得られた。高分子準易分解DOM、低分子準易分解DOM、低分子難分解DOMの3成分の混合で、DOMの挙動を説明する新たな修正モデルを考案した。
3: やや遅れている
「研究実績の概要」に記載の通り、2021年度には、DOM分画濃縮法の開発と、DOM分子サイズ別生分解性の解明について、研究を進展させることができた。一方で、新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響により、不測の事態(共同利用施設の利用停止、研究代表者の保健所への一時出向等)が生じ、研究の進展に少なからず影響を受け、天然DOM試料の窒素同位体比分析には未到達である。
2022年度は、分子サイズ別に濃縮回収した琵琶湖湖水DOM試料について、バルク窒素同位体比を測定し、アミノ酸組成等の指標とも組み合わせて、起源を推定する。長期有機物分解実験試料について、SEC-TOC等の分析を継続し、DOMの分子サイズ別の分解特性について、さらに詳細に解明を進める。
COVID-19の影響により、参加した学会がすべてオンライン開催となり、旅費の支出が無かった。また、消耗品の購入価格を想定よりも抑えることができた。2022年度には、成果発表のための支出(学会参加費、論文英文校閲費等)と、消耗品の購入に活用する予定である。
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