研究課題
血液や尿等の体液中には、感染性病原体や腫瘍に対する適応免疫応答の媒介や組織修復などの情報伝達を担う細胞外小胞の存在が相次いで報告され、バイオマーカーとしての活用が期待されている。放射線曝露においても、生体損傷への関与が示唆されているが、線量や産生・標的細胞の関係等未だその詳細は不明である。本研究では、こうした細胞外小胞の体内循環情報伝達物資としての性質を活用し、全身放射線曝露個体に組織障害軽減や致死回避をもたらす薬剤投与により血中で増加する細胞外小胞を探索・特定し、それら細胞外小胞の放射線障害軽減作用を評価する事で今後の新たな放射線リスクの防護に資する事を目的としている。まず本年度は、マウスにX線照射7Gy後、放射線緩和剤としてTPO受容体作動薬を照射直後から腹腔内投与し、経時的に生存マウスを麻酔下で採血後、骨髄、肝臓、脾臓、消化管の臓器摘出を行い、各種臓器の病理組織学的解析、造血組織中の多能性造血幹細胞や間葉系幹細胞数の変動解析、障害修復機構解析を含めた基礎的な評価に供した。照射非投与群は30日目までに全個体の死亡が確認された一方、照射投与群は全例が生存し、多臓器不全における血管内皮細胞障害の関与が報告されるプラスミノーゲン活性化抑制因子1の有意な抑制が認められた。さらに生存個体の脾臓には造血幹細胞、多能性前駆細胞、骨髄系及びリンパ系前駆細胞、間葉系間質/幹細胞数の増加が認められた。特に18日目では脾臓における巨核球造血、すなわち髄外造血が認められ、マウスの造血を司る肺においても単分化能性巨核球形前駆細胞数が有意に回復した。これらは急性放射線症候群で誘発される血小板減少の抑制に関与していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本年度計画していた通り、マウスにX線照射7Gy後、放射線緩和剤としてTPO受容体作動薬を照射直後から腹腔内投与し、経時的に生存マウスを麻酔下で採血後、骨髄、肝臓、脾臓、消化管の臓器摘出を行い、各種臓器の病理組織学的解析、造血組織中の多能性造血幹細胞や間葉系幹細胞数の変動解析、障害修復機構解析を含めた基礎的な評価に供した。
血液から細胞外小胞及びRNAを回収し、マイクロアレイ解析でmiRNA及びmRNAの発現プロファイル解析、リアルタイムPCRにより遺伝子の絶対定量解析を行い、放射線障害及びその障害軽減/致死回避応答に特異的な内在性分子の探索と同定を試みる。併せて、各臓器から細胞外小胞及びRNAを回収し、特徴的に発現した遺伝子の発生起源の特定を試みる。
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