研究課題/領域番号 |
18K18195
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
堀越 保則 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (00719429)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射線被ばく / DNA二本鎖切断 / DNA修復 / 細胞核構造 |
研究実績の概要 |
放射線の生物作用の標的が「生命の設計図」たるDNAであることは広く知られているが,そのDNAが染色体という形で秩序だって格納されている細胞核,特にその高次構造に関して,DNA損傷がどのような影響をもたらすのかについては,深い知見が得られていない.本研究課題では,ヒトの細胞核において,DNA二本鎖切断(Double-strand break: DSB)を誘発したのちに,核構造がどのように変化し,それがDSB部位や修復因子の動態にどのような影響を与えるかを明らかにすべく解析を進めている. 今年度は,DSB誘発後の核骨格タンパク質NuMAのリン酸化に関して,その経時変化をウェスタンブロット解析で検証し,DNA損傷後数分以内という早い時期に起こり,数時間に渡って継続するという結果を得た. 続いて,siRNAによりNuMAの発現抑制を行った場合,放射線感受性が高まるという結果を得た.また,発現抑制条件下での各修復因子の核内フォーカス形成への影響を評価するにあたり,Metasystems社のMetafer systemの導入を進めた.現時点では,少なくともDSBの相同組換え修復に関与するRAD51のフォーカス形成に関しては,ハイスループットな画像取得や機械的かつ定量的な解析を行える環境を構築した. さらに,リン酸化修飾を受けない変異体,あるいはリン酸化修飾をミミックした変異体を安定的に発現する細胞株を樹立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電離放射線によりDSBを誘発した細胞を用いる解析に関しては,おおむね順調に進展している. 解析に用いる細胞株の樹立も既に終えており,解析に着手している. 一方で,紫外線レーザ照射によりDSBを誘発した細胞に対して各種解析を計画していたが,本研究課題採択時期と前後して紫外線レーザに不具合が発生した.故障期間中は,紫外線に極めて近い波長である405 nmのレーザの代用を考え,条件検討も行ったが,同様の実験系を確立することはできなかった.現在は紫外線レーザが復旧しており,当初の実験計画に沿って解析に着手し始めている. また,所属する大学部局の運営において,想定外かつ喫緊の課題が発生し,その対応に計画外のエフォートを割く必要に迫られた.本研究課題は研究代表者が一人で行うものであるが,先述の運営業務も代替人員が用意できない内容であったため,研究の進捗に支障を来す一因となった. 以上から,やや遅れているという判断を下した.
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今後の研究の推進方策 |
紫外線レーザ照射を行う実験系が復旧したので,遅れていた細胞生物学的な解析を進めていく.生化学的な解析と並行し,リン酸化NuMAと各種DNA修復因子との共局在・相互作用や,発現抑制時の各種DNA修復因子の動態の解析を行う.また,樹立した安定発現細胞株を用いて,DSB誘発後の核構造の変化やDNA修復における,NuMAのリン酸化の生物学的意義の検証を進めていく.
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