研究課題
放射線の生物作用の標的が「生命の設計図」たるDNAであることは広く知られているが,そのDNAが染色体という形で秩序だって格納されている細胞核,特にその高次構造に関して,DNA損傷がどのような影響をもたらすのかについては,深い知見が得られていない.本研究課題では,ヒトの細胞核において,DNA二本鎖切断(Double-strand break: DSB)を誘発したのちに,核構造がどのように変化し,それがDSB部位や修復因子の動態にどのような影響を与えるかを明らかにすべく解析を進めた.まず,核骨格タンパク質NuMAの発現を抑制することで放射線感受性が高まり,また,DSBの修復が遅延することが分かった.放射線や紫外線によるDSB誘発後のNuMAのリン酸化に関しては,生化学的アプローチから,DNA損傷後数分以内という早い時期に起こり数時間に渡って継続することが示された.さらに,細胞生物学的解析により,NuMAタンパク質自体は放射線や紫外線の被ばくに関係なく核内に一様に存在し,リン酸化はDSB部位近傍でのみ起こることが明らかになった.一方で,放射線の被ばく線量依存的にNuMAのタンパク質量が減少するという興味深い現象が観察された.これは,放射線被ばくによりDNA以外にも細胞核,特にその高次構造が損傷を受けうるという実例であり,今後放射線生物学に新たな展開をもたらすものと考えている.放射線治療という観点からも新たな知見であり,将来的な応用が期待される.
すべて 2019
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Journal of biochemistry
巻: 166 ページ: 343-351
10.1093/jb/mvz041