研究課題
C57BL/6Nマウスを用いた体外受精により受精卵を採取し、0.1 - 1.0 Gyのガンマ線を照射した後、胚盤胞期胚までの発生を経時的に観察した。0.5 Gyのガンマ線では、媒精後4時間から7時間で胚盤胞への発生率の低下を認め、特に媒精後5時間がピークであった。そこで媒精後5時間の受精卵に0.1 Gyと1 Gyのガンマ線を照射したところ、1 Gy照射の場合には約半数が1-4細胞期で停止し、発生が続いている残り半分も大半が桑実胚から胚盤胞期胚の段階で発生が停止した。これに対し、0.1 Gy照射では1-4細胞期での停止はごく少数であったが、約半数が桑実胚から胚盤胞期胚の間で発生が停止した。媒精後5時間の時点でのガンマ線照射が、約3日後の桑実胚から胚盤胞期胚の段階で発生を停止させる分子メカニズムを解明するために、次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析を試みた。0.1 Gyと1 Gyのガンマ線を照射した受精卵と非照射受精卵のうち、媒精後72時間で桑実胚まで発生している受精卵各10個を採取し、10個を一群としてSMART-Seq v4試薬でライブラリを作成、mRNA-Seqを行った。非照射と0.1 Gy照射受精卵の遺伝子発現解析比較では39遺伝子の発現に差があり、非照射と1 Gy照射では113遺伝子の発現差がみられた。1 Gy照射で変化の見られた遺伝子の内95 %の遺伝子において0.1 Gy照射の際に非照射と1 Gy照射の間の発現量を示していた。0.1 G、1 Gy照射において変化している遺伝子が全く異なっているということはなく、照射量依存的な遺伝子発現変化を示しているという結果から、桑実胚段階での発生停止は0.1 Gyと1 Gy照射で同じ作用であることが推測された。
2: おおむね順調に進展している
これまでに受精卵に0.1 Gyと1 Gyという異なる線量の放射線を当てた際に起こる受精卵の反応を確認し、そのメカニズムを調べるための条件の選定行った。次に少数の桑実胚胚を単離し、次世代シーケンサー用のライブラリ作成、シーケンスと比較解析を昨年度から引き続き進めている。
現在進めている桑実胚段階での遺伝子発現解析から胚盤胞期胚への過程での受精卵の停止に関わる分子メカニズムについて検討する予定である。シーケンス解析から発現差のあった遺伝子のうち受精卵停止にかかわる可能性のある遺伝子を見出し、その遺伝子の機能について検討をすすめている。
条件等の検討が計画しているよりもスムーズに行うことが出来たため次年度使用額が発生している。今後のライブラリ作成試薬やシーケンス用試薬費用、またメカニズム解析のための抗体の購入費用として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)
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