研究課題/領域番号 |
18K18197
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
柳原 啓見 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線影響研究部, 博士研究員(任常) (50719474)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低線量率放射線 / 放射線発がん / Apc Min/+ マウス / 放射線変異シグネチャー / LMD |
研究実績の概要 |
低線量率放射線被ばくによる健康影響についての関心が高まる一方、低線量・低線量率放射線影響についての統一見解を示せていない。これは、放射線分野の大きな課題である。特に低線量放射線で問題となることは発がんと遺伝的影響である。しかし、腫瘍の形状や病理組織解析では、放射線に起因して発生した腫瘍なのかを判断することは困難であるため、従来のがん発生率によるリスク評価法では正確とは言えない。この問題を克服するため、本課題では放射線変異シグネチャーに基づいた放射線誘発がんと自然発生がんとの識別法の確立により問題解明を目指し、発がんに至る放射線影響の実体を分子レベルで捉えることを目的としている。 昨年度、ヒト家族性大腸腺腫症モデルマウス([C3H/He×C57BL/6J]F1 Apc Min/+マウス)を用いて放射線特異的変異シグネチャー解析を行った結果、放射線照射群の腫瘍において特徴的な変異を見出した。本年度は、さらに精度を高めるべく高感度な解析法の確立を目指した。ApcMin/+マウスで生じた消化管腫瘍では、腫瘍が大きくなるほど腫瘍マーカーであるβカテニンの局在が不均一となっていくことを見出し、進行した腫瘍組織が正常細胞とがん細胞の混合状態であることを明らかにした。このままではノイズが大きいため、マイクロダイセクションと免疫染色を組み合わせることでがん細胞だけを高純度に回収することに成功し、ノイズの大幅な低減が達成された。これにより高感度なゲノム解析が可能となり、放射線誘発がんと自然発生がんのゲノムレベルでの高感度識別法を確立することができた。この方法により、極微量な差の生体情報を捉えることが可能となり、低線量・低線量率放射線の生体影響、特に発がんリスクの評価への貢献が期待できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高感度な放射線誘発がんと自然発生がんとの識別法を構築した。より微細な欠失やコピー数変化、遺伝子変異を捉えるためのアレイCGH解析の準備も進めており、放射線誘発がんのサンプルから抽出したDNAを用いた解析も進めている。これにより概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は確立した放射線誘発がんと自然発生がんとの識別法を用い、低線量・低線量率放射線の生体影響、特に発がんリスクの評価について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
三年目は、解析サンプル数を増やしてアレイCGH解析を行う予定で多額の費用が予想されるため、そちらの費用に充当する予定である。
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