医療被ばくの増加などに伴い、低線量・低線量率放射線被ばくによる健康影響についての関心が高まる一方、低線量・低線量率放射線影響についての統一見解を見出せていない。これは、放射線生物学分野の大きな課題である。特に低線量放射線で問題となる事象は発がんと遺伝的影響である。しかし、腫瘍の形状や病理組織解析では、放射線に起因して発生した腫瘍を判断することは困難であるため、従来のがん発生率によるリスク評価法では正確とは言えない。本研究では放射線変異シグネチャーに基づいた放射線誘発がんと自然発生がんとの識別法の確立し、発がんに至る放射線影響の実体を分子レベルで捉えることで、低線量・低線量率放射線被ばくの健康影響を明らかにすることを目的としている。 昨年度までに、ヒト家族性大腸腺腫症モデルマウス([C3H/He×C57BL/6J]F1 ApcMin/+マウス)を用いて放射線特異的変異シグネチャー解析を行った結果、放射線照射群の腫瘍において特徴的な変異シグネチャーを見出し、放射線誘発がんと自然発生がんのゲノムレベルでの高感度識別法を確立することができた。本年度は、組織固定法や免疫染色法の改良と消化管腫瘍内のがん細胞のみをレーザーマイクロダイセクションシステムで採取することでゲノム回収の効率化を行った。この識別法を用いて低線量・低線量率放射線照射のサンプルの解析を進め、低線量・低線量率放射線の発がんリスクを評価することが可能となった。
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