研究課題
本研究は、鯨類由来細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立し、環境汚染物質のin vitro毒性評価系の構築を目的とする。死亡漂着又は混獲された鯨類の組織から培養した線維芽細胞を初期化し、iPS細胞の樹立を試みる。さらにiPS細胞から神経細胞へ分化誘導し、誘導神経細胞を用いた環境汚染物質の神経毒性評価を目標とする。初年度は、複数種の漂着鯨類について線維芽細胞のストックを作成し、エレクトロポレーション法による初期化因子の導入効率を至適化した。令和元年度は、至適化した手法と鯨類線維芽細胞のストックを用いてiPS細胞の樹立に取り組んだ。まず、初期化因子(OCT3/4、SOX2、KLF4、L-MYC、LIN28およびp53-shRNA)を組み込んだエピソーマルベクターをスナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)の線維芽細胞に導入した。遺伝子導入した細胞をフィーダー細胞上に継代し、約4週間後に1~2 mmのコロニーが複数形成されたことを確認した。コロニーの形状を先行研究と比較したところ、ヒトiPS細胞と形状が類似していた。また、アルカリフォスファターゼおよびTRA-1-60抗体による免疫染色で陽性反応が得られたことから、細胞の初期化と多能性が示唆された。得られたコロニーを顕微鏡下で単離し、フィーダー細胞上に重層した。3-4週間後にコロニーの形成を確認した後、継代時に酵素によりシングルセルの状態に解離させ、フィーダーレス培養に切り替えた。初年度作成したiPS様細胞は、継代後のコロニーから増殖しないという問題が生じたが、酵素を用いた継代によりこの問題を解決することができた。その後も順調に増え、iPS様細胞の凍結保存ストックを作成した。
2: おおむね順調に進展している
研究は順調に遂行できており、これまでに例のない鯨類由来細胞を用いたiPS細胞の樹立に向け前進した。初年度に得られた鯨類細胞と至適化した手法を用いて、スナメリ線維芽細胞の初期化に向けた検討を行ったところ、細胞の初期化と多能性を示すマーカー(アルカリフォスファターゼとTRA-1-60)で陽性反応が得られた。初年度はクリアできなかった、コロニー継代後に細胞増殖しないという問題も解決でき、iPS様細胞も安定して増殖しているため、今年度の目標は概ね達成できたと考えている。
今後は、スナメリiPS様細胞の多能性について確証を得るために、リアルタイムPCRで多能性に関わる遺伝子群の発現を確認する。また、スナメリiPS様細胞を三胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)へ分化誘導し、それぞれのマーカーを用いて確認することで、得られた細胞の分化能を検証する。得られた細胞がiPS細胞である確証が得られたら、神経への分化誘導を開始し、効率的な誘導方法の確立を目指す。ヒト線維芽細胞を用いて同様の手法でiPS細胞を樹立し、陽性対象として用いる。
予定していた学会が招待講演となり、交通費が支給されたため。余剰額は、次年度の実験に必要な試薬に充てる予定である。
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