研究実績の概要 |
本研究は、鯨類由来線維芽細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立し、環境汚染物質のin vitro毒性評価系の構築を目的とする。初年度および次年度では、スナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)の線維芽細胞に山中4因子を含む6種の初期化因子を導入し、スナメリ由来iPS様細胞を樹立した。得られた細胞は、アルカリフォスファターゼ、TRA-1-60、SSEA-3、SSEA-4抗体による染色で陽性を示し、PCR解析によりNANOG、SOX2、OCT3/4の発現が認められたため、未分化状態であることが示された。また、スナメリiPS様細胞を三胚葉へ分化した結果、3種マーカー(外胚葉:Otx2, 中胚葉:Brachyury, 内胚葉:SOX17)による染色で陽性であった。これらの結果から、スナメリiPS様細胞が分化多能性を獲得したことが示唆された。iPS様細胞を用いて胚様体を形成した後、神経前駆細胞を作成し、神経前駆細胞マーカー(Nestin, SOX2, OCT3/4)による染色で陽性が確認できた。
一方、初期化因子の導入に用いたプラズミドがスナメリiPS様細胞に残存していることがシーケンス解析により明らかになった。同様の問題が、鯨類と同じ鯨偶蹄目に属すブタでも指摘されている(Li et al., 2018, Cell Cycle, 17, 2547-2563)。これらの細胞も多能性幹細胞であると定義されているため、引き続きスナメリiPS様細胞を用いた神経細胞への分化試験を検討したい。
また本年度は、スナメリ線維芽細胞を用いて環境汚染物質による細胞毒性を解析した。その結果、スナメリの体内に残留する残留性有機汚染物質(POPs)と同等の濃度において、線維芽細胞に細胞死やアポトーシスが引き起こされることが明らからとなり、リスクの高い化合物を選定することができた。
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