研究課題/領域番号 |
18K18202
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
利部 慎 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 助教 (20608872)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水循環 / 水質 / 水年齢 / 人為汚染 / 自然災害 |
研究実績の概要 |
目に見えない「地下水」は、汚染が発生した際にその原因やメカニズムの解明が難しい。本研究では、実際に水質汚染が発生しているフィールドを対象にして、地下水の出口である「湧水」を多角的に調査・分析する。 甚大な自然災害インパクト(1991年・雲仙普賢岳の噴火)を受けた島原半島では上流域の土地利用形態が著しく変化し、下流域に広がる名水百選の『島原湧水群』では、噴火後の水質変化が報告されている。また、有明海を挟んだ対岸に位置する金峰山では、経年的な果樹園開発という人為起源インパクトに伴い、名水百選の『金峰山湧水群』の水質汚染が極めて進行している。両地域では、こうした自然災害と人為起源の大きなインパクトを受ける前の水質調査報告が存在していることから、当時と現在の湧水水質との比較に加え、高度な水文科学手法(同位体手法、水年齢手法、微量溶存元素分析)を用いた水試料分析を適用し、GISや3次元地下水流動シミュレーションを用いた土地利用解析と水収支計算で定量化を図るべく研究に着手した。 具体的には、両地域における湧水の採水調査を実施した。両地域で計約40地点での採水が完了し、翌年度中には水質分析結果が得られる見込みである。また、水年齢の解明のためには分析装置の確立が不可欠であったことから、既存のシステムの改修を行う必要があった。クロロフルオロカーボン類(CFCs)および六フッ化硫黄(SF6)分析を実施すべくシステム改修に取り組んでいるところである。 研究の「見える化」のための基礎情報構築のために土地利用解析のためのGIS手法の習得にも成功し、任意の湧水における土地利用面積の解析を行い年代別の土地利用変化を見ることができた。 来年度には水年齢のデータも出揃う予定であるため、これに地下水流動シミュレーション等を加えることで、両地域での比較解析に必要な基礎データ構築を完了させ、研究を発展させる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に研究対象とした島原湧水群および金峰山湧水群における過去の水質データ整理を終え、現地での採水調査も完了した。島原湧水群では、噴火から25年が経過し復興した現在の広域的な採水調査を実施し、金峰山湧水群では、果樹園が全斜面に分布した現在の広域的な採水調査を実施した。 本研究の核となる水年齢分析のための一連の分析装置の改修にも着手し、来年度中には分析値を出すことができる予定である。また、既に申請者がH26-28年度の若手研究Bにおいて確立した85Krを用いた水年齢測定手法を用いて、金峰山の北側に位置する地域で地下水の年代推定を実施し、上流域から下流域にかけて年代が延びるような地下水流動に整合的な結果を得ることに成功した。 さらに土地利用解析のためのGIS手法の習得にも成功し、任意の湧水における土地利用面積の解析を行い年代別の土地利用変化を見ることができた。研究の「見える化」のためには3次元地下水流動シミュレーションが必要になるため、その手法習得のために講習会に参加するとともにアカデミック版のソフトを購入し、簡易なシミュレーションにも成功した。 来年度には、水質分析結果や水年齢値が出揃う予定であるため、これに3次元地下水流動シミュレーション等を加えることで、両地域での比較解析に必要な基礎データ構築を完了させ、踏み込んだ解析に着手できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に島原湧水群および金峰山湧水群の両地域において採水調査を完了し、水質分析にも着手したことから、来年度以降には水年齢の解明および土地利用解析を主眼に置いて研究を進める計画である。 日本は降水量が豊富で地形が急峻であるため、50年未満の若い地下水が卓越している。この若い地下水の年齢(滞留時間)の解明は、持続可能な地下水利用・管理・開発に繋がるため、地方自治体・行政側からのニーズが強い。既に85Krを用いた分析は終えたことから、他の若い年代トレーサーであるCFCsやSF6の測定を実施し、水年齢の高時間分解能での解明を目指す。 また、地下水シミュレーションに着手することは、モデル構築で不確定要素の強い透水係数や有効間隙率を設定する際に、水の時間情報がモデル精度を高める点や地表面下を流動する地下水の「見える化」ができることから強いニーズがある。 こうした社会ニーズを具現化することを目指すためにも、来年度は「水年齢の高精度化」と「見える化」を実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入予定だった物品が、在庫なしだったことから、当該年度内に購入することができなかった。この予算を繰り越し、次年度速やかに購入する計画である。
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