研究課題/領域番号 |
18K18206
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
田上 瑠美 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 研究員 (60767226)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水圏環境 / 魚類 / 化学物質 / 生物移行・残留性 / 濃縮係数 / ADME / 体内動態 |
研究実績の概要 |
医薬品類やパーソナルケア製品に含まれる生理活性化学物質(Pharmaceuticals and Personal Care Products, PPCPs)による生態影響が懸念されている。化学物質の生理活性は一般に生物体内の濃度が閾値を超えることで発現することから、曝露影響評価には、生物体内濃度の理解が重要である。他方、化学物質の体内濃度は、ADME(取込・分布・代謝・排泄)の違いにより、化学物質種および生物種間で異なることが予想される。そこで本研究では、PPCPsの魚類への移行・残留性について定量的に解析し、ADMEを考慮した高精度な濃縮係数(水-魚間の化学物質分配係数)予測モデルの構築を試みる。 平成30年度は、下水処理水に試験魚3種(コイ・ヒメダカ・ティラピア)を曝露し、PPCPs 115種の生物移行・残留性を解析した。具体的には、取込期間および排泄期間を設定することにより、取込速度定数、排泄速度定数など各種速度論パラメータを算出し、物質種間および生物種間で比較解析した。また、濃縮係数の実測値(BCFmeasured)と化学物質の脂溶性パラメータに基づき予測される濃縮係数(BCFpredicted)を比較した結果、40%以上の物質において誤差1桁以内の精度で濃縮係数を予測できることが示された。一方、残余60%については、BCFmeasuredがBCFpredictedに比べ10倍以上高値を示す物質、BCFmeasuredがBCFpredictedに比べ1/100より低値を示す物質が存在した。これらの要因として、前者の場合では、取込速度定数が比較的高値を示したことから、脂質以外への分配(タンパク質との特異な結合など)、後者の場合では、排泄速度定数が比較的高値を示したことから、速やかな代謝・排泄が推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、研究計画書に記載した通り、下水処理水に試験魚3種(コイ・ヒメダカ・ティラピア)を曝露し、医薬品類やパーソナルケア製品に含まれる生理活性化学物質(Pharmaceuticals and Personal Care Products, PPCPs)115種の魚類への移行・残留性を解析した。下水処理水曝露試験は全て円滑に実施でき、水試料および生体試料の化学分析も滞りなく終了した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、血漿タンパク結合率の測定や肝ホモジネート試料を用いる代謝試験などin vitro試験を実施し、予測誤差を生む要因の特定と数値化を試み、ADMEを考慮した精度の高い生物濃縮性予測モデルの構築を目指す。PPCPsおよびビスフェノール類の生物移行・残留性について、多種多様な水生生物の実測データの集積および高精度な予測モデルの構築が達成できれば、生態影響評価のための生物種間の外挿・類推に付随する不確実性の低下と生態毒性・生物濃縮性試験の削減が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会参加のための旅費を計上していたが、スケジュールが合わず出席できなくなったため。 平成31年度に参加が決定している国際学会への参加費および旅費として(平成31年度分の旅費と合わせて)使用予定である。
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