土壌中の放射性セシウムは粘土鉱物に強力に結びついているものの、植物に吸収されることが知られている。微生物の仲間であるきのこは、植物よりもずっと放射性セシウムを効率的に吸収することが知られている。その理由として研究者は、きのこが土壌等に分泌する有機酸をシデロフォア生産菌の栄養として利用される結果、シデロフォア生産量が増加し、シデロフォアと有機酸の相乗効果によって土壌からのセシウム溶脱が進むのではないかと考えた。その機構の解明を目標として、昨年度は、まず数種類きのこが生産する有機酸を同定した。その結果、それぞれ数種類の有機酸を生産し、生産される有機酸は一般的に知られているものであり、共通する有機酸があることが明らかとなった。きのこが生産する有機酸と同じ有機酸試薬の水溶液に、放射性セシウムを吸着させた粘土鉱物を入れ、溶出するCsを調べたところ、Csはほとんど溶出しなかった。そこで今年度は、有機酸以外の有機物であるシデロフォアという鉄キレート化物質に着目した。Cs吸収能力が高いことが知られているシロツメクサが生育している土壌から、シデロフォア生産性に着目して細菌の発現性を調べ、シデロフォア生産性を持つバクテリアを単離した。その内の一つ、Pseudomonas属と同定されたバクテリア及び一種類のきのこ菌糸をそれぞれ液体栄養培地中で培養したのちに、回収洗浄し、最少栄養培地で同じ吸光度となるように希釈した。この細胞懸濁液中に黒雲母の粉末を投入して、液相の金属元素濃度変化を調べた。どちらの場合でも、黒雲母から鉄とケイ素が溶出し、溶出量はきのこ菌糸の方が高かった。この結果は、用いたきのこから鉱物溶解力の高い有機物が分泌されている可能性を示唆する。今後、この有機物の同定と特性評価を行うことを考えている。
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