土壌に沈着した放射性セシウム(137Cs)は、時間の経過とともに雲母鉱物の層間へと固定されて溶出しにくくなる。エイジングと呼ばれるこの現象の把握は、農産物の汚染リスクの経年変化傾向を推定する上で重要である。以前の研究では、エイジングの指標として、交換性画分の137Csが経時的に解析されてきたが、この指標値には、土壌環境が変化した際に数値が変動するという問題がある。本研究では、この問題に対処した新たな指標として、交換性画分における137Csと安定セシウム(133Cs)との同位体比(137Cs/133Cs比)を経時的に解析し、東京電力福島原子力発電所事故以降の137Csのエイジングの経過を解析した。 最終年度は、複数圃場における経年分析結果から、土壌中での137Csのエイジングの進行速度(減衰率)を評価した。また、土壌の乾湿培養処理によってエイジングを試験的に加速化させ、将来のエイジングの経過を推定した。 つくば市内の試験圃場3地点で2011~2020年に、福島県内の農家圃場13地点で2012~2018年にかけて、交換性画分の137Cs/133Cs比の経年変化を解析し、この間のエイジングの進行により、交換性137Csが減衰率0~0.07/年(最大で10年間で50%減)の速度で減少したことを明らかにした。また、培養試験では乾湿繰り返しによる137Cs/133Cs比の低下が認められ、現地モニタリングとの比較より、一部の圃場では、今後も10年間程度エイジングが継続しうることが示された。 本研究では同位体比分析を用いることで、137Csの固定現象について、エイジングと環境要因に起因する現象とを分けて解析することができた。その結果、現地圃場におけるエイジングの進行速度が定量評価されたことに加え、福島においてはカリウム肥沃度の増加により137Csの可逆的な固定が生じたことが明らかになった。
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