研究課題/領域番号 |
18K18212
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
岩井 久典 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 博士研究員 (70733765)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 褐藻 / 鉄 / 腐植物質 / 藻場再生 / SWEOM |
研究実績の概要 |
褐藻は鉄吸着性を有するアルギン酸を細胞壁の主成分としている。そのため、鉄の生物利用性は、他の藻類と異なり、アルギン酸への鉄吸着現象を考慮する必要がある。本研究では、溶存態鉄のアルギン酸膜吸着性・非吸着性と生物利用性の関係を検討している。 人工アルギン酸薄膜を用いた鉄の吸着性評価手法を開発し、EDTA及びフルボ酸等のキレート剤の存在による鉄のアルギン酸薄膜吸着性を評価した。しかし、褐藻の成熟アッセイでは、アルギン酸膜吸着性のもっとも低かったEDTA鉄の生物利用性が高く、高い吸着性を示したキレートフリーの鉄では成熟が見られなかった。 これまでの研究から、アルギン酸膜非吸着性に基づいた鉄生物利用性の評価が必要と考え、非吸着性の評価のためアルギン酸膜透過性の評価手法を新たに開発した。 物理的強度の増加のため、ガラスフィルター繊維によって細胞壁骨格を模倣し、アルギン酸薄膜でコーティングすることにより、溶液の減圧ろ過が可能(濾過速度 約10 mL/min)なアルギン酸膜コーティングフィルター(ALCF)を作成した。ALCFのアルギン酸含有量は、約275μg/mg-濾紙であり、誤差1%未満の高精度で作成できた。 ALCF透過性の鉄は、キレートフリーではほぼ0%であったのに対して、EDTAをキレート剤に使用した場合は95%程度の鉄が透過した。これは、鉄添加による褐藻の成熟アッセイの結果とよい相関が見られた。フルボ酸を用いた場合、5%程度しか鉄は透過しなかったのに対して、海水可溶性分画を用いると30%程度の鉄の透過が観測され、鉄の生物利用性がALCF透過性により評価できることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属先変更に伴い、褐藻の培養環境を再構築する必要があった。褐藻配偶体の培養を元に、新たに培養環境を整えた。そのため、本来予定していた褐藻胞子体の鉄利用アッセイの遂行が遅れる結果となった。
|
今後の研究の推進方策 |
新たに開発したアルギン酸薄膜コーティング濾紙(ALCF)による鉄のアルギン酸薄膜透過性により、褐藻配偶体の鉄利用性を評価できることがわかった。今後は、ALCFによる様々なキレート及びその濃度条件下での鉄の透過性を評価する。 また、配偶体の成熟アッセイを用いて、褐藻への鉄生物利用性との関係を明確にする。 同時に、褐藻胞子体を用いた鉄の利用性評価も行う。当初は北海道への試料採取を予定していたが、感染症拡大防止対策によるサンプリング活動の制限も考えられる。この場合、能登沿岸域の褐藻(ホンダワラ)の胞子体を対象として実験を行うことを計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
鉄の生物利用性評価手法についてアルギン酸薄膜の透過性からみる新たな手法開発のために生じた胞子体培養実験の遅延に伴うサンプリング旅費の未支出により、次年度使用額が生じた。これは、本年度予定するサンプリングの旅費として使用する。
|