研究課題
本年度はまず,地盤改良の対象となる砂質堆積物を選定するため東京湾沿岸部において計2回の調査を実施し,8カ所から堆積物サンプルの採取を行った.採取したサンプルは,鏡下観察によって構成鉱物の同定を行うとともに粒度分布を明らかにした.さらに,XRDおよびICP-MSによる全岩化学分析を実施し,各サンプルの炭酸塩鉱物形成ポテンシャルを算出し,反応実験に用いる試料を決定した.上記の分析の結果,一部の沿岸域に貝化石を非常に多量に含む堆積物が分布していることが明らかになった.貝化石は主として炭酸カルシウムから形成される.炭酸塩鉱物はケイ酸塩鉱物に比べて早く溶解するため,この貝化石を溶解・再沈殿させることでより簡易に炭酸塩鉱物による地盤の固化を実現できる可能性がある.そのため,当初の研究目的である”ケイ酸塩鉱物の溶解とこれに続く炭酸塩鉱物の沈澱による地盤改良技術”に加え”地層中に存在している炭酸塩鉱物の溶解と再沈殿による地盤改良”が行えるかを確認することとした.現在,反応実験に向けて試料の調整までが完了しており,後述する実験システムの変更に伴う分析手法の変更について検討している.上記と並行して本年度は反応実験系の整備を行った.当初はフロースルータイプの実験システムを構築する予定であったが,配分予算状況を鑑み閉鎖系のシステムとした.テフロンの内筒を用い,筒の状態で各種分析を行うシステムはそのまま再現できるようにした.本年度は,この実験システムのテスト実験および炭酸塩鉱物の合成実験を試み良好な結果が得られている.
2: おおむね順調に進展している
実験システムの整備が完了し,順調に運用されている.また,現在までの運用で炭酸塩鉱物の形成条件に関する論文1編が公表されており,研究成果は順調に得られている.さらに,実地調査とその後の化学分析により,地層中に含まれている炭酸塩鉱物をそのままリサイクルし,この溶解と再沈殿による地盤改良技術という新しいアイデアが得られた.今後の課題と,新たな実験課題を見出せたことからも,本研究は順調に進展しているといえる.
次年度は炭酸塩鉱物形成に伴う地盤改良を確認するための室内実験を精力的に進める予定である.また,確立された技術の応用範囲を明らかにするため,引き続き野外調査も実施する.次年度が最終年度となるため,炭酸塩鉱物による地盤改良技術の有効性が確認され次第,国際学術誌への論文投稿を行うなど,成果公表についても積極的に進めていく予定である.
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 8件)
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