北海道、関東および東海地域において、水温および気温観測を継続して実施した。取得したデータから夏季(7-8月)の平均水温および気温を算出し、統計モデルを用いて、これまで評価してきた「流域地質の夏季平均水温への影響」が気候勾配にそってどのように変化するかを検証した。その結果、1)夏季平均水温を決定する主な要因は、プラスの効果を持つ夏季平均気温とマイナスの効果を持つ流域地質(火山岩割合)であること、2)流域の火山岩の割合の増加による冷却効果は、夏の降水量が少ない地域か気温が低い地域でより顕著になることが明らかになった。さらに、こうした地質による水温冷却効果の高い地域においては、水温の空間的異質性に応答して魚類と水生昆虫の群集組成は火山性河川と非火山性河川で有意に異なり、火山性河川の群集はより多くの冷水性種によって特徴づけられていた。これまでの研究では、温暖化下での冷水環境を提供するレフュージアとして高標高エリアが主に注目されてきた。今回の研究は、流域スケールでの気候変動適応策を設計する際に、標高に加えて、地質、気候という複数の要素を同時に考慮することで、より効果的な生態系保全を行える可能性を示唆している。
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