研究課題/領域番号 |
18K18229
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
中久保 豊彦 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (70648766)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 下水汚泥エネルギー利用 / 固形燃料化 / 熱収支解析 / システム設計支援 |
研究実績の概要 |
従来のバイオマスエネルギー導入支援モデルは,原単位方式(投入量×エネルギー消費原単位)でエネルギー収支を推計する設計支援ツールが大半であった.一方で,大都市下水処理場でエネルギー回収技術が実装されている現場では,熱のカスケード利用等を組み込んだ高度なシステム設計がなされている.本研究では,創意工夫により熱利用を高度化させたシステムを設計・評価することができる支援モデルを開発することを目的とする. 2018年度研究課題では,下水汚泥の固形燃料化技術のうち,造粒乾燥を対象とした熱収支解析モデルを開発した.脱水汚泥の乾燥機で発生する排ガスは,温度・湿度の制御のために高温ガス(乾燥機投入ガス)に循環される量と,排気される量に配分される.排気側に回るガスは,復水器に投入され,含有蒸気が飽和水となることで潜熱を失い,潜熱を受け取った冷却水が熱交換を介して消化槽の加温・保温用熱源として使用される.乾燥機に投入する高温ガスは消化ガスを燃焼して得る.これにより,補助燃料に依存しないシステムが成立する. 開発した熱収支解析モデルを北九州市・日明浄化センター(乾燥させる汚泥は直接脱水汚泥),福岡市・西部水処理センター(乾燥させる汚泥は消化脱水汚泥)に適用し,熱のカスケード利用を組み込んだ固形燃料化システムが導入されることによる効果を解析した.評価指標はエネルギー消費量,温室効果ガス排出量とした.固形燃料化システム導入前の基準ケースは,北九州市ではごみ焼却施設での脱水汚泥の混合焼却が,福岡市では汚泥専用焼却炉での脱水汚泥の単独焼却が行われている条件とした.固形燃料化システム導入により,エネルギー収支の改善に加え,N2Oの排出抑制を図ることができるため,温室効果ガス排出量で評価すると,システム導入前と比較して北九州市で60%の削減,福岡市で76%の削減が到達できる可能性を示す結果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度研究課題は,下水汚泥の固形燃料化技術を対象とし,熱の融通・カスケード利用をシステム設計に組み込むことが可能な支援モデルを開発することである.北九州市・日明浄化センターで既に導入されている固形燃料化システム(固形燃料化技術:造粒乾燥,使用燃料:消化ガス,排ガスからの潜熱回収:復水器による回収)について,熱収支解析モデルを開発し,推計値と実績値との比較評価を行った.消化槽の熱需要量の季節変動性を踏まえた比較評価を行い,担保できる精度(実績値に対して推計値が5%以内に収まる範囲内)で熱収支を解析できていることを確認した.よって,将来,固形燃料化システムが導入されることによる効果を分析するにあたり,活用可能な支援モデルを開発できた. 固形燃料化システムの導入効果の分析は,導入前の既設技術システムとの比較に基づき実施する.脱水汚泥を対象とした既設技術システムに該当する,汚泥専用焼却炉での単独焼却,セメント工場・キルンでの焼却について,熱収支解析モデルを開発した. よって,概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
下水汚泥の固形燃料化システムについて,低温炭化も対象に加え,熱の融通・カスケード利用をシステム設計に組み込むことが可能な支援モデルを開発する. 廃熱利用型焼却システムを対象に,熱収支解析モデルを開発する.高効率脱水設備を併用することによる汚泥焼却炉内の熱収支の改善効果,燃焼ガス保有熱量からのエネルギー回収と有効利用の効果を対象とする.多様なエネルギー計画に適用可能な支援モデルを開発する. 大都市下水処理場を対象として,下水汚泥の物質フロー図を作成する.下水汚泥のエネルギー利用にあたっては,消化の有無がシステム設計に大きく影響する(汚泥が消化される場合,脱水汚泥中の有機分は低下するが,含有有機物の一部を分解して得られる消化ガスの活用が可能となる).下水道インフラ特性(消化の有無,汚泥処理の集約度,固形燃料受入先との距離,など)を踏まえ,技術選択(固形燃料化システム,廃熱利用型焼却システム)に係る判定基準を定式化するとともに,選択支援法を作成する. 対象とする大都市に支援モデルを適用し,脱水汚泥のエネルギー回収技術が各都市で導入されることによるエネルギー収支の改善効果,温室効果ガス排出量の削減効果を分析する.その上で,2030年に向けた下水道分野での温室効果ガス排出削減ロードマップを具現化する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度,旅費の支出について計画よりも減少分があったため,次年度使用額(10,213円)が発生した. 次年度使用額(10,213円)については,2019年度の旅費で支出予定である.なお,この変更に伴う研究計画への影響はない.
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