研究課題
今日パーム油は全世界の植物油種生産量の36%を占めており、安いコストと食用・工業用・バイオ燃料への広い用途から最も重要な植物油種である。一方でパーム油生産国では、プランテーションに伴う森林減少や、それを発端とする生物多様性の損失、二酸化炭素の増加、児童労働といった国際的な社会環境問題が深刻化している。これに呼応して、世界自然保護基金が中心となってRSPO (持続可能なパーム油の円卓会議) が設立され、持続可能なパーム油生産と利用の喫緊性がますます高まっている。その一方で、今後パーム油需要は人口増や温暖化対策を機にさらに加速化することが予想されており、世界のパーム油需要の緩和はこれらの問題解決に向けた必須事項である。こうしたパーム油を必要とする商品の最終需要先は先進国が中心となっており、日本も例外ではない。しかしながら、パーム油の用途は加工食品や菓子類、外食産業への一次利用と、化粧品や医薬品、洗剤等の化学工業製品への二次利用が存在し、単にパーム油の輸入量を追うだけではその国の真のパーム油依存量を把握できない問題が生じている。本年度は、研究の遂行に必要となるオイルパームの生産や貿易に関するデータベースや文献のサーベイに努めつつ、国際貿易統計、パーム油需給統計、および世界産業連関表を利用したマテリアルフロー分析により、環境産業連関分析モデルへの接続を考慮した231ヵ国を対象とする最新の二国間パーム油の金額フローを同定することに専念した。また、後に利用する日本の家計消費需要を考慮した関連研究を実施した。
2: おおむね順調に進展している
上記のモデルにおけるサプライチェーンを構成する部門を細分化するためには、世界各国で生産されたアブラヤシからパーム原油 (crude palm oil: CPO) とパーム核油 (palm kernel oil: PKO)、さらに前者は食用と非食用 (オレオケミカル)、そして菓子類や化粧品といった最終製品へのマテリアルフローを理解する必要がある。このマテリアルフローの把握を目的として、UN Comtradeにおける5000超の輸出統計品目からCPOとPKOに関連するものを、食用の最終製品の分類は既存研究の論文や、当研究資金で購入した専門書、およびデータベースに基づいて選定する作業を行った。その結果、約90の商品品目がパーム消費に直接的ないし間接的に関連する産業として抽出された。次にそれらの産業における平均的なCPOおよびPKOの消費量を各国ごとに決定する必要があり、現時点では文献値や化学成分から推定を試みている。
今年度は、前年度に引き続き国際パームフローの同定を進め、それをもとに計量経済モデルの一つであるグラビティモデルを利用して動学化を図る。推定に重要な要素として、一人あたりGDPや人口等の経済パラメータ、二国間距離、貿易協定の有無といったGravity modelの基礎となる変数に加え、対象国の一人あたり摂取カロリーやGDPに対する工業化割合等の食と工業化に着目したパーム油需給に関連する変数を選定する。これらのパラメータの数値は、World BankのWorld Development IndicatorsやFAO (国連食糧農業機関) のFood Balance Sheets、フランスの国際経済研究機関CEPIIのThe CEPII Gravity Datasetの統計データから参照し、今後の世界各国の経済と食生活の動向を反映する国際パーム油フロー構造の推定式を導く。この推定式に選定した変数の値を決定するシナリオを、国連のWorld Population ProspectsやFAOのThe future of food and agriculture、経済協力開発機構のEconomic Outlookを参考に作成し、2030年までの将来国際パーム油サプライチェーン構造を描出する。
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