研究課題
本プロジェクトでは二年目は、以下の通り十分な研究結果を得ることができた。実践的研究として岡山県備前市立日生中学校で行われている海洋教育プログラムの評価研究を継続し、生徒への3年間にわたる聞き取り調査や保護者及び教員へのアンケート調査より同プログラムの効果を明らかにする360度フィードバックを試みた。結果、同プログラムを通して生徒は入学時から卒業するまでの三年間で、地域の海に対する知識が深まり、保全意欲が高まること、更に生徒を介して保護者や地域の人々に地域の自然を守ることの重要性が浸透していることなどが明らかになった。この成果は国際誌Conservation Science and Practice(論文タイトル:Effectiveness of a marine conservation education program in Okayama, Japan)に受理・掲載された。また同海洋学習プログラムを通して留学生と日生中学校の生徒が協働する取り組みについてまとめた論文は紀要「政策科学」(論文タイトル:中学生と留学生による海洋保全をテーマとした国際交流プログラムの実施)に掲載された。もう一つの実践的研究としては、日本環境教育フォーラムが山梨県北杜市で1987年より毎年開催している清里ミーティングの評価研究を継続して行い、アクションリサーチの手法に則り、環境教育評価における実務者と研究者との協働の在り方を示した。この成果は原著論文として国内誌「環境教育」(論文タイトル:環境教育プログラムの評価における内部評価と外部評価の併用の可能性―清里ミーティングに関する実務者と研究者との協働事例をもとに―)に受理された。本研究成果は国内の学会(日本環境学会第45回研究発表会及び第30回日本環境教育学会)で研究発表をした。
2: おおむね順調に進展している
一つ目の実践的研究である日生中学校の海洋教育プログラムの評価のおいては、生徒への継続聞き取り調査及び保護者・教員へのアンケート調査だけでなく、中学校の全校生徒への一斉アンケート調査を実施することができた。このアンケートは中学校の教員と共同で質問項目を作成し、自由記述や絵の描写などに関する質問を含めるなどこれまでになかった試みをした。研究成果は2019年度に2本の査読付論文の掲載(第一著者:1本、第二著者:1本、国際誌:2本)という形で達成でき、また1本の英文書籍の章としてまとめられた。更に海洋教育プログラムの評価に関する研究内容も含めた単著の英文書籍Human Dimensions of Wildlife Management in AsiaをSpringer社より出版した。海洋教育プログラムの評価研究は、当初の予定より早く業績を積むことができたと考えている。二つ目の実践的研究である清里ミーティングの評価においても、その成果を二つの国内学会で発表し、研究者と実務者との協働に焦点を当て原著論文が国内誌「環境教育」に受理された。また清里ミーティングの参加者への意識調査の結果も分析し、国内学会で発表した。本研究成果を踏まえ、実際の清里ミーティングの目標にも改善が加えられるなど、本研究は学術的な意味だけでなく社会的な意義も見いだせた。清里ミーティングの評価研究は概ね順調に進んでいる。その他、本プロジェクトに関連する研究の成果としては、野生動物管理における環境教育の意義・評価という文脈で調査・分析した社会心理学アプローチによる研究成果が国際誌Global Ecology and Conservationに掲載された(論文タイトル:Factors affecting attitudes towards reintroduction of wolves in Japan)。
最終年度である2020年は、これまで収集してきたデータの分析結果を全て論文にまとめ、学会誌への投稿及び学会発表という形で研究成果を出すことに注力する。一つ目の実践的研究である海洋教育プログラムの評価においては、2019年度に実施した中学校全校生徒へのアンケート調査の結果を分析し、論文にまとめる。本アンケートより、これまで定性的に明らかにしてきたプログラムの効果を、定量的に検証することが可能となり、またアンケートにおける5段階スケールの質問項目と自由記述、更に絵の描写の結果を分析することで、異なる調査手法の有効性を比較する。二つ目の実践的研究である清里ミーティングの評価においては、2020年に再度同ミーティングに参加し、参加者への意識調査を実施する。2017年に実施した参加者意識調査と2020年の調査結果を分析・比較し、清里ミーティングが参加者に与える効果及びインパクトを明らかにする。2020年度は、二つの実践的研究の成果及び学会での発表や関係者・他の研究者との議論の結果なども踏まえ、環境教育プログラムの評価を行うために必要なプロセスに関する理論的な分析・考察を行う。具体的には一連の研究で使用してきた評価ツール(ロジックモデル、セオリーオブチェンジ、360°フィードバックなど)の有効性を検証し、それぞれのツールが効果的な場面や状況を整理し、現場で応用可能な環境教育評価手法として提案する。更に2020年度は、これまで行ってきた研究を一歩発展させ、環境教育プログラムの評価及び人と自然との共存に関する現状を把握するための一般市民を対象としたアンケートを実施予定で、これはこれまで行ってきた研究の保全生態学など関連する学問分野への貢献を目指しており、本プロジェクトの次のステップへとつながる研究に進展していくことが期待される。
予定していた米国への出張は別予算から旅費を執行できたので、本若手研究における旅費を節約できた。清里ミーティングの評価に関する研究では、現地調査はデータ(参加者の意識調査の結果)を現地に行かずに収集できたため、またこれに関連する打ち合わせはメールなどでやりとりすることで旅費を削減することができた。日生町への出張もメールでのやり取りを経て、出張回数を減らしたとともに、別予算からも執行できたため、旅費を節約できた。なお、新型コロナウィルスの感染拡大により、日生町への出張の一部を取りやめたが、関係者との打ち合わせをオンラインで継続している。調査票の入力のバイト代も予定よりも安くすみ、人件費の支出も削減することができた。なお最終年度である2020年度は本研究の一環として、環境教育プログラムの評価及び新たなる人と自然との共存について現状を把握するための一般市民を対象としたウェブアンケートを実施予定で、また研究成果を広く公開するために、ウェブページを新たに開設する予定である。次年度使用額をこれらウェブアンケートや研究成果のアウトリーチのために執行予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 6件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件) 図書 (4件) 備考 (1件)
Global Ecology and Conservation
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http://sakurairyo.net/