研究課題/領域番号 |
18K18239
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
桜井 良 立命館大学, 政策科学部, 准教授 (40747284)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 保全意欲 / 地域への愛着 / 再生活動 / 評価 / 海洋学習 / 絵の描写 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトの三年目は、以下の取り十分な研究成果を得ることができた。 実践的研究として岡山県備前市立日生中学校で行われている海洋教育プログラムの評価研究を継続し、全校生徒へのアンケートより、5段階スケールの質問項目と自由記述、更に絵の描写の結果を比較分析した。地域への愛着や地元の海を保全することへの意欲など9つの項目において、学年ごとに平均値は差が見られなかったものの、自由回答の分析より2,3年生は1年生より海洋学習で学ぶ内容に関する記述(例:再生活動、アマモ)が増えること、また絵の分析より3年生は1,2年生と比較して海の中の生物の豊かさについて描写する生徒が多いことが明らかになった。本研究では、複数の手法(自由記述、絵の描写など)を用い分析したことで、一つの調査手法(例:リッカート尺度の項目)だけでは知ることができない多様な生徒の意識や考え方を抽出することができた。また重回帰分析より地域や地元の海への興味関心や愛着がある生徒ほど、日生の海に対する保全意欲が高いこと、更に人(家族、地域の人、友人など)とのつながりが深まるほど、将来に対して肯定的なビジョンを持つようになることも示された。これらの成果を日本環境教育学会及び日本生態学会の年次大会で口頭発表した。更に、本研究成果に関して学術論文を日本生態学会の学会誌「保全生態学研究」に投稿した。 また2020年度は、これまで行ってきた研究を一歩発展させ、環境教育プログラムの評価及び人と自然との共存に関する現状を把握するための一般市民を対象としたアンケートを実施した。合計7,500名から回答を得ることができ、我が国で行われてきた環境教育の成果や課題を考えるうえで有用なデータを収集できた。この成果について現在は分析及び論文を執筆しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日生中学校の海洋教育プログラムの評価のおいては、これまで行ってきた生徒への継続聞き取り調査及び保護者・教員へのアンケート調査、更に卒業生への調査だけでなく、中学校の全校生徒への一斉アンケート調査を実施することができ、自由記述や絵の描写などの分析など新しいアプローチで研究成果を得ることができた。これらの成果は二つの学会で口頭発表し、原著論文「海洋学習を通して中学生の「地元(海)」に対する意識はいかに変容したか:自由記述や絵の描写との比較調査より」を日本生態学会誌「保全生態学研究」に投稿した。 また本テーマに関係するその他の研究の成果として、SDGsと環境教育の視点から執筆した共著論文 “Have Sustainable Development Goal Depictions functioned as a nudge for the younger generation before and during the COVID-19 outbreak?”が国際誌Sustainabilityに査読付き論文として掲載され、また大学の教育プログラムの評価をした研究成果を論文 “Changes in students’ learning skills through the mandatory first-year experience course: A case study over three years at a Japanese university”にまとめ国際誌 “Research in Higher Education”に投稿した。 なお本研究課題である日生中学校における海洋学習の評価研究や清里ミーティングの評価研究、更にその他の野生動物との共生に関する一連の研究などの業績が認められ、2020年度日本生態学会宮地賞及び「野生生物と社会」学会若手奨励賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
三年間にわたる実践的研究(岡山県備前市立日生中学校における海洋学習プログラムの評価、市民対象の環境教育イベントである清里ミーティングの評価など)や理論的研究(評価理論や手法の整理、ロジックモデルなどの有効性の確認)を踏まえ、本研究課題の最終ゴールである環境教育の評価に関する教科書を執筆する準備が整った。これまでの成果をもとに、初めて環境教育の評価を行う人が参考にできる「環境教育プログラムの評価入門」を現在は執筆している。 岡山県備前市立日生中学校における評価研究については、日生中の卒業生も多数進学している岡山学芸館高等学校でも同様の研究をすることが決定し、調査項目の設計などを現在している。これまでの中学を対象とした研究から、高校生も対象とした中高一貫評価研究が可能となり、海洋学習プログラムの人材育成としての意義を明らかにするうえで重要になる。 今後は、国内における環境教育評価事例の収集だけでなく、海外、特に環境教育プログラムの評価研究において先進的な取り組みをしている米国でも事例調査をして、国際的に有効な環境教育評価手法/モデルの開発を試みたい。そのために、米国コーネル大学の研究グループとの共同研究を開始しており、2021年8月からは現地に滞在し、環境教育研究を展開するCivic Ecology Labと協働で評価研究を行う予定である。 一般市民を対象とした環境教育の評価や自然との共生に関する調査については、アンケート結果を論文に完成させ、原著論文として二本国際誌に投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大によって、出張が全て中止となったため、今年度の旅費が0円になった。一方で、日生中学校の教員や米国コーネル大学の関係者など共同研究者とはオンラインで打ち合わせを継続し、研究を進めた。最終年度であった2020年度は、本研究の一環として環境教育プログラムの評価及び新たなる人と自然との共存について現状を把握するための一般市民を対象としたウェブアンケートを実施し、また研究成果を広く公開するために、ウェブページを新たに開設し、それぞれ本研究予算から執行した。なお、残額については、本研究成果も踏まえた書籍の出版費などに執行する予定である。
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