今年度は研究期間の最後の年にあたるため、研究発表に注力した。『労働の理念と現実(イスラーム・ジェンダー・スタディーズ8)』(明石書店)では、論文「ジェンダー政策を再考する ガーナ農村部の女性の地位向上と労働・家計負担の増加」を分担執筆した。本書の刊行記念シンポジウムでは、編者と監修者の視点を踏まえ、論文の考察を深めた内容を発表した。また、『論点・ジェンダー史学』(ミネルヴァ書房)を共著し、本研究での成果をもとに、1970年代から始動した国際開発のジェンダー政策の歴史をわかりやすくまとめた。本研究課題を含めこれまでアフリカ大陸での農業・ジェンダー史研究に焦点を当てて研究を進めてきたが、2024年3月29日開催の日本農業史学会では日本の農業史・ジェンダー史家との研究交流の機会も得た。そのシンポジウム「戦後日本農業・農村における技術革新の歴史的経験―人びとはテクノロジーに何を託したのか―」でコメンテーターを依頼され、農業開発に際するジェンダー関係の変化をテーマに「技術革新と農村の衰退」と題した発表をおこなったのだが、20世紀後半の日本でもガーナと同様に「農業の女性化」が起きていたことを知り、非常に興味深かった。日本とガーナの間での比較分析をとおして農業分野や農村部への科学技術の導入による労働や生計をめぐるジェンダー関係の変容について考察を深めることにつながり、地域をこえて農業・ジェンダー史の理論化を進めるうえで示唆的なものになった。本研究課題の遂行の過程で研究の新たなアイデアの着想を得て、今年度より基盤研究(B)「格差を是正する国際協力 地域研究からの理論構築」を開始させることができている。
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