東南アジアの熱帯地域では、自然林の伐採に伴うプランテーションの拡大、植生変化、種多様性の減少が指摘されている。ベトナムにおいても山間地域におけるアカシアの植栽が盛んに実施され地域の人々の生業となる一方、沿岸域への影響が懸念されている。 本研究は、熱帯域の自然林やアカシア林は、①海への栄養塩供給に貢献しているのか? ②海で生産される牡蠣は、どれだけ陸域起源の栄養に依存しているのか? ③アカシアプランテーションは、悪なのか?の以上3つの問いに答えるべく、1)アカシア林、自然林などの陸域からの栄養塩類のフローの明示、2)湾内の牡蠣に関するフードウェブと陸性食物起源の寄与についての推定、3)湾内の一次生産、牡蠣生産量と栄養塩類の現況の理解と赤潮・貧栄養リスクの検討、4)アカシア植栽農業の生業を左右する内的・外的要因の把握を目的に、ベトナム中部アンクー湾流域において研究を実施した。コロナの影響により他の熱帯域の事例(底質について)として年月を遡るが、フィリピンでの研究を追加した。 明らかになったのは以下の点である。1)土地利用ごと(アカシアと自然林)の栄養塩流出に大きな差がなく、陸から沿岸域への栄養塩類の流入は小さい。2)湾の栄養塩類の主なソースは堆積物・底質からと示唆された。3)湾全域における牡蠣のおよそ生産量が推定され、物理的閉鎖性は高いが栄養塩類の濃度は低くいことが示された。4)アカシア植栽施肥は短期的なものであり、土地の利権に関わる形態での運用(企業下で20年植林すると、森林は特定者の所有物に)の事例も聞かれ、副業の1つとして浸透していた。 以上から、アカシアの栄養利用特性、カキの栄養塩類回収能、洪水時の栄養塩流入と堆積特性、カキの生態(偽糞)による堆積・蓄積を完全に捉えたものではないが、現地におけるアカシア植栽の影響は、栄養塩・水産物の生産性の観点においては、悪ではなかった。
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