東アフリカ農村では、従来は平等的な規範にもとづいて格差を是正し、経済的成長よりも生存維持を重視する社会が形成されてきた。しかし近年、新自由主義的思想にもとづいたグローバル市場の影響が、アフリカ諸国にも影響を与えている。それにともない、農村地域も急激に変容しており、経済格差の拡大が懸念されている。それにも関わらず当該地域を対象とした研究は、依然として地域住民を一様に「小農」とみなすか、あるいは小農のみを研究対象としてきた点で問題がある。本研究の代表者は、東アフリカ農村におけるこれまでの調査から、近年になって企業家的な大規模生産をおこなう「豪農」の出現を明らかにしている。本研究ではこのような研究を発展させ、経済的に裕福な富農に注目して東アフリカ農村社会をとらえなおし、経済格差の視点を組み込んで当該地域の生存基盤を再考することを目的とする。 研究期間全体としては、タンザニア連合共和国における現地調査の結果から以下の成果を得た。第一に、農村地域の世帯調査から経済格差の状況を把握し、それが人びとの主たる生業の種類、すなわち牧畜主体か農業主体かという基準で分析したことである。第二に、富農と小農の雇用関係や土地の売買の調査から、農村内に生じた階層的な変化を明らかにした。第三に、富豪の牧畜世帯が拡大あるいは縮小する社会的なしくみを明らかにした。人びとは、従来の牧畜社会の家族制度の規範にもとづき、一定の世帯に富と労働力を集中させていた。第四に、生業と食生活の調査から、牧畜世帯の大規模な移住を支える要因を明らかにした。 最終年度となる2023年度には、第四の成果を得るとともに、これらの成果を総合的に議論して総括する成果を発表した。
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