東南アジア諸国では,AECの枠組みの下で経済連携が進んでおり,それに伴う国際労働力移動の拡大は,各国の地域労働市場に影響を与えるものと考えられる。本研究では,タイを事例地として,周辺諸国からの労働力流入によってどのように変化したのか,産業別就業構造や都市間人口移動から明らかにする計画である。 新型コロナウイルス感染症の影響により現地調査を延期してきたが,2022年度は,2023年3月にタイのチェンマイにおいて現地調査を実施した。この調査の目的は国境に近い都市に流入する外国人労働者とタイ人労働者の双方のライフヒストリーやかれらの就業実態から地域労働市場における労働力需給の競合を明らかにすることである。現地調査では,隣国ミャンマーに結びつく少数民族シャンを取り上げ,タイ国内における滞在・就業の状況を50人にインタビュー調査した。あわせて,かれらと同職種で就業するタイ人労働者にもほぼ同数の40人にインタビューを行った。インタビュー結果はデータ化された段階で,データ分析が完了していないため,詳細な検討はできていない。データの概要からはタイ国籍を所有していないシャンの中にはパスポートを所有している者もおり,国境を越える移動は合法的な形態へと移行しつつあることが窺える。しかし,たとえパスポートを取得した上で合法的にタイに入国したとしても,タイ人と比較すると,シャンの賃金水準は低い。同様の職種に就業していたとしてもタイ人とシャンの間には階層構造が形成されているようである。
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