本研究は、北タイの伝統的な灌漑システム「ムアン・ファーイ」の共同管理のあり方と自己改革の変遷、王立灌漑局との関係の変化を跡付けたうえで、1950年 代から政府主導で建設・管理が行われてきた大規模灌漑管理システムを比較対象とし、水配分や紛争解決といった資源管理のあり方の違いを分析することで、住 民ネットワークの中に蓄積されてきた「横」の社会関係資本と、住民ネットワークと政府の間で構築される「縦」の社会関係資本の相互作用が、天然資源の管 理において、どのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とするものである。さらに、資源管理システムが大きく変容した後、それ以前の資源管理シ ステムの中で醸成・強化されてきた社会関係資本が、新たな資源管理システムの中でどのような機能を果たすのかについて明らかにすることを目指している。 2年目には、初年度の現地調査を受け、日本タイ学会の研究大会にて「住民組織と参加型水資源管理のあり方をめぐって~北タイのムアン・ファーイ灌漑管理システムと政府灌漑事業の比較から~」と題する報告を行なった。報告では、末端の水資源管理が機能するためには住民の主体的な参加が重要であり、それを可能するための要件として、灌漑用水管理を超えた地域社会システムとしての機能(集落内・集落を超えた信頼関係の醸成・維持、文化・環境保全意識向上、等)に着目すべきであるという政策的インプリケーションを提示した。その後、「伝統的」住民組織である水利組合について、灌漑管理における「共同性」のあり方とそれを生み出す要因を明らかにするために、再度、チェンラーイ県での現地調査を行なった。世帯調査からムアン・ファーイと大規模灌漑事業の利水者の参加のあり方を解明し、地域の有力者のインタビューからムアン・ファーイの政治的位置付けを明らかにした。
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