本年度は、第一にこれまでに収集したアラビア語原典資料等の一次資料を精査し、ヨルダンにおける難民受け入れの現状を把握するとともに、市民社会に関する最新のデータを分析した。市民社会を取り巻く法改正の動きや、活動範囲などの変化についての動きを整理し、フィールド調査に向けた準備を行った。第二に、ヨルダン及びトルコにてフィールド調査渡航を実施した。調査地ヨルダンでは、シリア難民支援をはじめ貧者支援に従事する市民社会組織を訪問し、参与観察と代表への聞き取り調査を実施するとともに、数十名のシリア難民に対して生活状況などの聞き取り調査を行った。また、北部イルビド県を中心にオリーブ生産を行う農地にて、シリア出身の農業従事者らへ聞き取り調査を実施した。これらの分析と結果については、国内においては複数の研究会において発表し、有意義なコメントを得た。トルコにおいては、難民自らの組織形成に着目し、シリア人ディアスポラ組織の役割として頭角を表しつつあることを明らかにした。こうした調査と並行し、国際学会(ISTR:International Society for Third Sector Research)での報告では、Covid19下において実施した調査データを元に、難民支援に関わる日本のムスリム社会の動向についての分析を発表し、今後の研究発展に向けて示唆を得た。滞日ムスリムの市民社会参画や、これに対する日本社会(市民社会)の応答については、今後も継続して調査し、分析する予定である。ヨルダンやトルコなどのイスラーム世界との連携を見せる日本のムスリム移民による市民社会組織の活動は、中東地域における難民支援の展開を考える上でも、彼らの持つネットワークやウンマ(イスラームの共同体)の形態を考察する際に有意義な視座を与えるものである。
|