研究課題/領域番号 |
18K18265
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
小西 鉄 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (60770279)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 金融監督の実効性 / 国営企業 / 投資家ネットワーク / 経済権力 / コロナ禍 |
研究実績の概要 |
世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大は、2020年4月以降、インドネシアでも深刻化しており、今年度の渡航が困難であった。そのため、現地調査は実施不可能となった。 そうした状況の中で、以下のように、昨年度までの調査結果に基づいた成果を上げたり、オンラインを駆使して報告や発表を行うことができた。 ①土着系ビジネス・ファミリーの経済権力の動態を描いた単著1本も出版することができた。同著の中で、ビジネス・ファミリーが経済権力維持のために行った金融取引に対して、金融監督の実効性が欠如している点を指摘しするものである。②インドネシアの株式市場で不透明な取引を行う投資家ネットワークを指摘する論文1本を投稿して採択・刊行された。①でのビジネス・ファミリーのほかに、様々な民間投資家ネットワークが行ってきた不透明な取引に対しても、金融監督の実効性が欠如していることを指摘した。さらに、③国営生命保険会社の株式取引をめぐる事件について、金融当局の脆弱性を指摘する報告を、国内学会2件、国際研究会1件のそれぞれで行った。①および②が民間企業の不透明性を議論したのに対して、同論文は国営企業を当てたものである。④上記の業績を踏まえて、金融監督の実効性の弱さに関して、インドネシア共和国大統領特別スタッフの H.E. Mr. Arif Budimanta氏の主催するオンライン・ワークショップで報告した。⑤そのほか、インドネシアのシンクタンクのオンライン・セミナーや主要メディアにおいて、金融監督の実効性や日本またはインドネシアのコロナ禍と経済・金融に関するコメントを行った(現地シンクタンク主催セミナー2件、現地経済専門テレビ番組4件、共同執筆による現地新聞寄稿1件)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(2)「おおむね順調に進展している」と(3)「やや遅れている」の間にあると考える。 予期せぬコロナ禍の影響により、2020年度を通して、当初予定していたインドネシアでの現地調査でのヒアリングやデータ収集、現地ネットワークづくり、および海外研究者訪問のための海外渡航(オーストラリア、ニュージーランド)など、実現できなかったことが大きく響いた。一方で、以下の進展はあった。 ①これまでの研究業績に基づき、インドネシアの経済権力の動態について単著にまとめて出版したことで、経済権力の問題点を明らかにし、それに対する金融監督の論点を整理できたことは大きな進展である。 ②また、これまでに取得してきたデータ、およびオンラインで入手可能なデータや情報などから、証券市場での金融取引をめぐる不透明性の実態を、投資家ネットワークの観点および国営企業の諸事例から分析してきている。 ③上記②について、論文・学会発表等の業績を挙げてきているほか、インドネシア共和国大統領特別スタッフ(金融担当)への報告も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
4つの分析を進め、随時その成果を論文や学会報告で発表する予定である。 ①証券市場における金融監督の法制度を分析した論文を、2021年5月現在、執筆中であり、国際ジャーナルIndonesian Journal of Political Research(IJPR)に投稿を予定している。 ②国営企業の不透明性に対する金融監督の実効性に関して、2つの事例に関する分析を進め、その成果を2021年8月実施予定の国際学会The 12th International Convention of Asia Scholars(ICAS12)で報告予定である。そこでの議論も踏まえながら、同時並行で論文にまとめ、『東南アジア研究』に投稿する。 ③年度後半に金融庁の新設をめぐる政治経済に関する調査・分析をすすめる。なお、調査にあたっては、アジア経済危機後の金融制度改革の文脈を参照しながら、オンラインでのヒアリングなども活用して進めていく。その成果を論文にまとめていく。 ④これまでの調査・分析、すなわちアジア経済危機以降の証券市場および国有企業のガバナンスと不透明性に対する金融制度改革をめぐる政治経済の分析をまとめ、『インドネシアにおける金融監督の実効性』をテーマとする著書の執筆を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の長期化により、当該年度を通じて現地調査が困難となり、予算の多くを占める旅費の支出がなくなったためである。(同時に、現地での書籍やデータの購入も困難となった)。 本研究の最終年度である2021年度において、関連分野の書籍購入を進めるほか、オンラインを通した現地データの大量購入を計画している。また、年度末にコロナ禍収束の見通しがあれば(かつ制度上認められるのであれば)、その翌年度(2022年度)での現地調査の費用として使用繰り越しの申請を検討している。
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