最終年度の2023年度では、インドネシアにおける金融監督の実効性にはどのような脆弱性があるかを問うた。その事例として、金融部門の中でも改革が遅れてきた非銀行部門で資金流用および株価操作がなされた事件を分析した。そこでは、司法判決を基に長年インドネシアの金融市場で慣行となってきた株価操作のメカニズムを明らかにしたうえで、以下の議論を展開した。実効性が不十分な要因として、①金融部門の中でも銀行部門に比して改革の遅れていた非銀行部門においては、ネガティブな財務状況が高リスク投資へのインセンティブを経営陣にもたらしたこと、②金融当局は改善のためのイニシアティブをとれなかったこと、および③重層的なネットワークがその間隙を付いて株価操作を実施したことで、行為規制の適用が困難だったこと、の3点を挙げた。そのうえで、四半世紀が経過した改革の実効性を検討するうえでは健全性規制のみならず、行為規制の脆弱性と合わせて議論する必要性を指摘した。 その具体的な研究成果として、査読付き論文1本が採択された。 研究期間全体を通じて、インドネシア企業に対する制裁の実効性を、金融監督を焦点に当てて検証してきた。その議論は以下のとおりである。民主化以降、銀行部門を中心にマクロな健全性規に関する改革が実施されてきた一方で、非銀行部門に対する政府の改革インセンティブが弱く、国有企業に対しては金融監督の権限が制度的に担保されていなかった。民主化以前から繰り返されてきた少数利益搾取の慣行は、小規模かつ重層的な投資ネットワークがその間隙を突いたものであった。そのため、改革の実効性はマクロな健全性規制のみならず、むしろミクロな行為規制の面から検証する必要がある。 具体的な研究成果は、単著1件、日本語論文2本、英語論文1本、国際共著2本、国内学会6件、国際学会7件うち招待付き3件、海外メディア出演4件、寄稿4本である。
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