本研究の目的は、近年、先進諸国において多文化主義に代わる新しい社会統合政策として注目されるようになっている間文化主義の理念と実践の可能性を明らかにし、ケベック州の間文化主義とヨーロッパにおける間文化主義との比較を試みることである。本研究の研究成果は次の二つである。 第一に、ケベック州における間文化主義についての研究成果である。まず、間文化主義の源流の一つとされる前ケベック州首相のルネ・レヴェックの移民政策についての思想を2018年に発表した論文において明らかにした。さらに、ケベック州の間文化主義の形成と展開については、2019年8月に旬報社から共著として出版した『新 世界の社会福祉第6巻 アメリカ合衆国/カナダ』において、「間文化主義―ケベック州における新たな社会統合の試み―」の中で検討した。 第二は、ケベック州で提起されてきた間文化主義と今日のヨーロッパ諸国における社会統合政策との理論的な共通点と相違点を検討する研究の成果である。まず、2019年の8月から9月にかけて、ヨーロッパ諸国(ベルギー、フランス、ドイツ、オーストリア、ポーランド、チェコ)において資料収集と現地研究者との意見交換を行った。とりわけ、ベルギーは間文化主義を国家の社会統合政策として試みた経験があり、その可能性について資料を精読し、検討を行った。その成果として、2019年12月に岐阜法政研究会において、「ケベックとベルギーの間文化主義」と題した研究報告を行った。
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