研究課題/領域番号 |
18K18277
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
森崎 美穂子 大阪市立大学, 大学院創造都市研究科, 客員研究員 (60812708)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 郷土菓子 / 真正性 / 農村ツーリズム / 果樹生産 / アルデシュ / 栗 / 白小豆 / 和菓子 |
研究実績の概要 |
近年、日本食はその健康的側面から評価されている。本研究課題が対象とする菓子類は嗜好品であり、こうした観点から重視されることは少なかった。しかし歴史的な背景や茶道との密接な関係からも菓子は日本の食文化の重要な要素をなしている。また増大する訪日外国人観光客の「まなざし」は菓子についても「真正」で「特異な」産品とさせるようになっている。なかでも郷土菓子は地域に固有な生活慣行によって独自の発展を経てきた。郷土菓子が歴史や自然景観と密接に関連する地域資源として観光振興に貢献している事例も散見されるが、地域農業との関係は希薄な状況にある。本研究課題は、欧州、とりわけフランスにおける食と農を高付加価値化させる農村振興制度と観光振興の実態を調査し日本における郷土菓子を核とした地域農業と観光の振興に資する条件の解明のための理論的モデルを日仏における実態の比較を通じて構築することにある。初年度は地理的表示制度(AOC=PDO)の認証を受けた栗とその果樹園が作り出す景観によってSRG(味の景勝地)にも登録されているフランスのアルデシュ県の現地調査を実施した。当地域では栗の需要者となる栗製品のメーカーにヒアリングを行い地理的表示産品の使用理由と使用状況を確認した。またアルデシュ栗保護垂直的業種委員会CICA、アルデシュ県農業会議所、アルデシュ州自然公園等から地理的表示産品の栗の栽培状況や価格の変化、果樹園の再生や地域振興の取り組みについて各代表者・担当者よりヒアリングを行った。 また国内の調査より伝統的な食文化が直面する課題として和菓子の希少な原材料である「白小豆」の調査結果をまとめた。白小豆について京菓子協同組合、商社、雑穀商など取引にかかわる団体にヒアリングを行った。この成果としてフードシステム学会、文化経済学会で発表を行い文化経済学会では査読を受け論文として学会誌『文化経済学』に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題が対象とする地理的表示制度(AOC=PDO)の栗の産地、栗の果樹園が作り出す景観によってSRG(味の景勝地)にも登録されたアルデシュ県での調査が遂行できたによって多くの情報と人脈が得られ、現在、収集した資料、データの分析作業を進めているところである。ただし雨季と重なり悪天候であったことから追加調査も検討中である。現地調査によって、フランスの栗、日本の白小豆、ともに気候変動などにより収量が減少しているという状況にあることも把握できた。そのため加工業者においては、他のエリアの原材料で補填しているなど地域農業と工業化された加工食品の関係に共通する課題も確認できた。成果の発表については、白小豆の調査では、文化経済学会<日本>で査読論文が掲載され成果発表の場が得られた。しかし、国際学会での発表は出来なかったため次年度で調整したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題とした地理的表示制度に認定された伝統的な栗の調査として、本年度は、栗粉の食文化についてコルシカ島(栗粉は原産地の特徴が明確な産品AOC=PDO))で実施する。 国内では、小布施、中津川のほか栗の産地の調査を実施する予定である。調査と同時進行で地域の農産品の高付加価値化の過程と課題について調査結果を取りまとめる。その後、フランスと日本における栗菓子のバリューチェーンの構造とその相違点を明らかにし、農産品と農業景観がもたらすシナジー効果、農業と観光とのシナジーを促進する菓子の在り方を検討し、理論的分析枠組みを構築し、精緻化することに時間を充てる。またフランス農業経済学会(SFER)での発表を目指す。最終年度の目標である研究内容を統合した論文の国際ジャーナルへの投稿と著書の刊行のための準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査のための交通費、事前手配と通訳、また物品等に関する費用が予算組みしていたものとずれが生じたために次年度以降に調整いたします。
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