研究課題/領域番号 |
18K18277
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
森崎 美穂子 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 客員研究員 (60812708)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 栗 / フランス / 郷土菓子 / 農村ツーリズム / 果樹生産 / アルデシュ / 栗 / 丹波栗 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、テロワール産品を通じた地域農業と農村の振興について、日本とフランスを比較することで、持続的発展に資する理論モデルを構築することを目的とする。具体的には地域の伝統的な菓子とその原材料の生産、それと結合した景観を軸とした農村ツーリズムについて、資料収集と現地調査を行っている。しかし、当該年度(2020年)は、新型コロナウイルスの感染拡大によってフランスでの調査(コルシカ島)、国内の産地調査(岐阜県中津川市、長野県小布施町)は中止となった。ただし、丹波地域(京都府・兵庫県)については引き続き行政の担当者、振興組合の現会長、前会長等にヒアリング調査を行い、生産振興政策と販路、現在の課題(後継者、収量、気候変動等)について把握した。また生産振興の一環である丹波栗(くり)広域品評会の取材も実施した。これらを踏まえて、丹波栗同様に、大納言小豆についても、その生産振興の変容について調査を実施し、フードシステム学会での査読論文が掲載され成果発表の場が得られた。 またこれまでのアルデシュ県の現地調査を踏まえ、業界誌(『製菓製パン』製菓実験社)に、フランスのアルデシュ栗(地理的表示産品)の生産とその加工品、そして栗林の景観と結合した農村ツーリズムについての記事を執筆し、アルデシュ産のマロンクリームを使用する需要者である製菓業界の方々に産地の取り組みを伝えることができたことは有意義であった。論文投稿には最終的な調査が必要であるが、文化経済学会で、丹波栗とアルデシュ栗の産地の現状を学会報告した。また電話等でも継続してコロナ禍での産地の状況についてヒアリング調査を行っていたことで、フランスで開催された地理的表示産品の国際研究大会ODTでは、新型コロナ禍での産地の対応等、日本の現状について学会報告(WEB会議システムを使用)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題では現地調査の重要度が高いものの、新型コロナウイルス感染症の国際的な流行によってフランスでの現地調査が実施できず研究の進捗状況は遅れている。しかし、これまでの調査において、本研究課題の目的のなかでも重要な位置づけとなるフランスのアルデシュ県、日本では丹波地域での栗の生産から販売までのバリューチェーンを明らかにできた。またフランスでの産品を高付加価値化する地理的表示産品としての利点と課題、そして山岳地帯における農業と農泊、そして観光振興策の現状などを把握することができた。またアルデシュ州自然公園が運営する「栗祭り」(秋の収穫祭)の効果やアルデシュ県農業会議所や地方行政が、供給不足の解消にむけて栗林の景観を目印として栗の生産振興(助成金制度や後継者のマッチング)を行い、新規就農者の栗の生産者も増加していることを確認してきた。一方、日本では、伝統的な産地である丹波地域、特に産出量の多い丹波市栗振興会の活動から丹波栗の現状について明らかにした。また丹波で開発された革新的な剪定・栽培方法が全国に伝播し、現在の日本の栗の産地拡大に貢献していることも明らかとなった。 ただし、日仏の栗の産地を事例とした地域農業と観光振興に資する理論的モデルの学会誌への論文投稿にはさらに最終的な調査が必要である。当初予定していたコルシカ島の景観と栗の食文化、そして観光振興の現地調査が実施できるよう最善を尽くしたい。 なお業界誌(『製菓製パン』)で執筆の機会が得られ、アルデシュ栗の生産と栗菓子生産や丹波栗の生産振興、大納言小豆の栽培方法の変容や行政の支援の現状を需要者である製菓業界の方々に伝えることができたことは有意義であった。また執筆を通じてコロナ禍においても常に原材料の産地と製菓業界にコンタクトが可能であったことも貴重であった。現在、次の現地調査に備えて文献調査を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、栗の栽培振興と高付加価値化は、生産者側において積極的な取り組みがある。一方で、フランスの場合では、加工メーカー側では、すでに他の地域の栗が使用されており、高級化した地元産の栗を再び使用するためには、地域全体のイメージの向上が不可欠であることも明らかとなった。ここに観光振興政策もあいまって、地域全体の誘客、栗の消費、土産品としての加工品・郷土菓子の需要創出が取り組まれている。 そこで、本年度は、アルデシュ県での栗についての補足調査を行うと同時に、当初の計画どおり、栗粉(栗粉は原産地の特徴が明確な産品AOC=PDO)の食文化・郷土菓子についてコルシカ島での調査を行い、景観と栗の食文化とのシナジー効果を明らかにする。コルシカ島は、フランス本土と異なる独自の文化と景観が特徴であり、より景観と観光、そして食文化の地域振興のモデル構築に必要な地域である。新型コロナウイルス感染症が落ち着き次第現地調査を行う。不可能な場合、WEB会議によってヒアリング調査を行うこととする。 最終年度として調査研究内容を統合し、本研究課題である、食と農を高付加価値化させる農村振興制度と観光振興を、日本における郷土菓子を核とした地域農業と観光振興に資する理論的モデルの構築に取り組むこととする。またこれらの成果は、国際研究大会ODTでの報告、文化経済学会、フードシステム学会等での報告や論文投稿を行う、また国際ジャーナルへの投稿、著書の刊行のための準備も進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、予定していたフランスでの調査(コルシカ島)、国内の産地調査(岐阜県中津川市、長野県小布施町)が中止となったため。また学会等もWEB開催となり交通費が不要となった。そのため計画していた使用額のうち、旅費等において特に大きな変更が生じた。感染状況が改善され次第これらの調査を実施したい。困難な場合は、電話やWEB会議システムでのヒアリング調査と情報収集等によって研究を進める。
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