ロシア・ウクライナ情勢を契機とした国際的なインフレーションの発生などが地域農業、製菓産業にも強い影響を与えている。これまで調査をおこなってきた丹波地域の特産品である丹波大納言小豆の栽培から京菓子、その消費に至るフードシステムについては、それぞれの立場で利益が相反する側面があった。しかし、近年の丹波地域での丹波大納言小豆の生産量の減少とコロナ禍での京菓子(茶席の菓子)の需要の消滅という危機によってフードシステム全体がより緊密な協力関係に向かっている。研究課題を遂行する過程で、京菓子の海外発信にも関わることが出来た。昨年に引き続き、在リヨン日本領事事務所の文化交流事業で京菓子の紹介(講演とコーディネート)を行った。本研究課題の成果としても有意義であった。 フランスでの調査では、本研究課題で調査対象としていたアルデシュ県での移住者・新規就農者が増加している背景を明らかにした。コロナ禍では、農村ツーリズムが、移住あるいは新規就農へと発展するケースもあり、彼らの多くは農業経営における自律性を探求する小規模での投入資源節約的な経営体である。生栗としては価値の低い小粒の栗を地理的表示制度によって加工品に至るまで高付加価値化し、地域全体のイメージを向上し、誘客と当該産品の都市での消費を活性化させてきた。こうした取り組みによって都心部からの新規就農者を獲得している。 これらの調査結果から、地域振興の活動の中核を担う行政組織と地域経済団体(公共部門と民間部門)による持続的発展に資する理論モデルについて紀要論文で発表を行った。アルデシュにみられる地域振興政策と農業振興モデルでは、国際競争力向上のための過剰な設備投資競争に巻き込まれることなく、また気候変動にも対応しつつ持続可能な地域が実現しつつある。今後、日仏の栗を通じた地域・農村振興を取りまとめて、国際ジャーナルへの投稿と書籍の刊行を計画している。
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