本研究は、現代ヨーロッパ農村におけるフード・ツーリズムを構成する多層レベルのアクターの役割と、それらの関係性についてアクターネットワーク理論の観点を応用して明らかにすることを目的とするものである。2022年度は補足調査を行うとともに、これまでの分析結果および文献調査を通じたフレームワークの精緻化を行った。具体的には、対象地域のコミュニティやNPOなど草の根レベルのアクターのフード・ツーリズムへの参与について、オンラインでヒアリングとデータ収集をし、それらに分析・検討を加えた。また、今一度アクターネットワーク理論関連およびフード・ツーリズム関連の文献調査を行い、それら相互の関連性とフレームワークについて整理した。それらの分析結果と、これまでの研究成果を踏まえると、ベルギー・西フランデレン州農村の対象地域においては広域を対象とするアクターからより狭い範囲の地域コミュニティあるいは企業レベルのアクターが協働しながらも、すみ分けや役割分担をすることによってフード・ツーリズムの資源が維持・強化された観光空間が形成されているということが明らかになった。そのような動きは観光の発展とともに国境を越えて広がりをみせていた。加えて本年度は、そのような研究成果を補強する参考事例として、マルタにおける複合的ベバリッジ・ツーリズムとイングランド北部農村地域におけるビール・ツーリズムについて現地調査およびアクターへのヒアリングも行った。引き続き各事例から得られた知見を国内外の学会で発表するとともに、学術誌への投稿で公表することを目指していく。また、全体からみて課題として残された部分についても、研究を継続させ、フード・ツーリズム研究の発展に貢献していく。
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