本研究は、ポリネシア・ツバルを事例に、気候変動ツーリズムにおける観光経験について明らかにすることである。当初の予定では、今年度はツバルにて現地調査を行い、気候変動と観光の現状について一次資料を得ることを計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて渡航が不可能になったため、オンラインでの調査となった。また、世界的に国際観光者数が激減する中で、2020年度はツバルへの観光旅行は事実上、不可能となっていたため、観光がなくなった後の状況についてのオンライン調査となった。 こうした状況は調査の実施という点では不利に働いたものの、改めて気候変動ツーリズムについて考える上では必ずしも悪いことばかりではなかった。本研究が消えゆく景観をめぐる気候変動ツーリズムをテーマにしていたこともあり、この状況の中で改めて観光とは何であったのかを考え直すことができた。 具体的には、これまでの調査で得たデータを再分析するとともに、補足的な聞き取り調査として、ツバルでエコツーリズムを牽引してきた団体の元スタッフやその参加者からオンラインでの聞き取りを行った。それにより、これまでは観光という現場においてゲストがどのようにホスト社会や現地の景観を認識してきたのかといった文化的な側面に主に注目してきたが、ゲストとホストがどのようなつながりをつくりだしてきたのかといった社会的な側面を新たに浮き彫りにすることができた。 並行して、ポストコロナにおける観光をめぐる最新の研究の分析を進めた。それにより、ツバルにおける気候変動ツーリズムを現代社会に位置付けるとともに、人と人とが誤解を伴いながらも出会い、葛藤を抱えながらもつながり、時に対立しながらも、時に連帯をつくり出す観光というダイナミズムを明らかにした。
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