研究実績の概要 |
本研究は、近現代におけるイスラーム的知識の「統合」の中にあらわれる「排除」の現象に着目し、その背後にある権力構造を明らかにすることを目指すものである。前近代のイスラームでは、法学派の枠組みの中で教育を受けた少数の男性宗教学者が、イスラームの学問的知識を生み出し、その統合を担ってきた。一方、近現代においては、西洋近代的な法体系や教育制度が導入される中、多様な背景と地位を持つ男女の知識人が登場し、マスメディアを通して、それぞれの思考や思索を世に問うようになった。この新しい状況の中で、イスラーム的知識の統合は、一つに特定の立場の者を「排除」することではかられてきた。 本研究では、20世紀エジプトの「近代主義者」「異端者」「女性」「復古主義者」の事例を取り上げ、彼ら彼女らが経験した「排除」の論理と圧力の資料的分析を通じて、近現代のムスリム知識人を取り巻く思想状況の特徴と、それを支える権力構造を浮かび上がらせることを目指した。 令和5年度は、「異端者」に関する成果物としてMohammed Moussa氏との共編著 Beyond Modernity: Critical Perspectives on Islam, Tradition and Power, Rowman & Littlefield Internationalの刊行と、その刊行記念セミナーを実施した。また「近代主義者」として法律家カースィム・アミーン(1863-1908)の著作の翻訳および解説の執筆を岡崎弘樹氏と共に行った。その成果は『アラブの女性解放論』(法政大学出版局, 2024)として刊行予定である。
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