研究課題/領域番号 |
18K18293
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
藤田 智子 九州大学, 比較社会文化研究院, 講師 (20782783)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オーストラリア家族 / 代理懐胎 / 生殖補助医療 / 生権力 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、オーストラリアを事例に、グローバル化や生殖医療技術の発展の中で、家族のあり方がいかに問い直され、家族自体へのこだわりが再生産されているのかを分析し、それにより、生殖医療を通した身体の統治について理論的に考察することである。具体的には、身体のテクノロジーという観点から、特に2000年代終わり以降のオーストラリアにおける生殖ツーリズムや代理懐胎とその規制をめぐる議論を検討する。 当該年度は、生殖ツーリズムを通した商業的代理懐胎とその規制をめぐる近年の議論を分析する予定であった。特に「ベビー・ガミー」事件、そしてそこから派生した商業的代理懐胎をめぐる議論を分析し、家族や親のあり方をめぐる言説の構図を描き出すことを目指した。2018年8月から9月にかけて約1か月の現地調査を行い、州立図書館やメルボルン大学などで資料調査を行うとともに、代理懐胎の専門家へのインタビュー調査も行った。 具体的には、まず、(1)先行研究のさらなる検討を通し、本研究の理論的枠組みについて再検討を行った。また、(2)近年商業的代理懐胎の利用が問題となった「ベビー・ガミー」事件に関する資料を収集し、そのコーディングを行った。そして、(3)商業的代理出産をめぐる議論の中でいかに親や家族をめぐる規範が再生産され、われわれの生や身体が生殖補助医療を通してどのように統治されているのかについて検討した。 研究成果の発表については、オーストラリア学会第27回地域研究会にて、研究発表を行った。この報告では、オーストラリアを事例に、バイオテクノロジーの時代における生殖補助医療を通した身体や生の統治について理論的に考察した。さらに、「ベビー・ガミー」事件をめぐる議論の分析については『三田社会学』に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、基本的には当初の計画に沿って研究を進めたが、上述のように、生殖ツーリズムを通した商業的代理懐胎とその規制をめぐる近年の議論の分析のみならず、生殖補助医療を通してさまざまな統治のテクノロジーが身体に介入することにより、代理懐胎が家族や個人、社会にもたらす影響についても検討した。研究発表と学会誌への投稿も積極的に行った。学会報告についてはオーストラリア学会第27回地域研究会にて行い、また『三田社会学』に論文の投稿を行った。この論文については掲載が決定している。したがって、本研究は、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、現地における資料調査と聞き取り調査およびそれらの分析を進め、積極的に成果報告を行っていく予定である。2年目は、代理懐胎を行う医師やそれを支援する団体、弁護士等への聞き取りを行い、国内における「利他的」代理懐胎の現状と問題点を考察する。調査はオーストラリアにおけるインタビュー調査と資料調査を中心に、日本でもデータベースなどを使用して資料収集を行う。成果はオーストラリアの学会等で発表し、学会誌に投稿する。 3年目はそれまでの研究成果を踏まえ、身体のテクノロジーという観点から代理懐胎とその規制が家族や個人(特に女性)、そして社会全体へもたらす影響を理論的に分析する。代理懐胎を通して代理母やその技術の利用者は親として、女性として、市民としての規範をいかに内面化しているのか。そこに専門家や支援団体はいかに関わるのか。国家/公権力は代理懐胎の規制を通していかに市民/国民を管理しようとしているのか。それらの分析を総合し、生殖医療を通した身体や生の統治の理論化を目指す。
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