研究課題/領域番号 |
18K18300
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
洪 ユンシン 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (80751057)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 沖縄戦 / 収容所 / 慰安所 / 性暴力 / 強姦恐怖 |
研究実績の概要 |
本研究は沖縄戦における「慰安所」から「収容所」空間をみた女性たちの経験を、多角的に考察するものである。 2019年度は「慰安所」から収容所まで女性が経験した暴力の連鎖を最も顕著に見せている事例を探り、内外での研究発表を行っている。まず、国内では、一橋大学で開かれた国際学会で「女たちの戦争体験と沖縄」と題し、沖縄戦から収容所へ至るまでの沖縄女性たちの体験について発表した。この国際学会は、一橋大学韓国学研究センター、韓国の成均館大学東アジア歴史研究所、中国の北華大学東亜歴史与文献研究中心が共同主催した国際シンポジウムで、第二次世界大戦とその後のアジアの平和構築を議論するために沖縄戦における女性の体験が与える教訓について論じた(2019年7月16日、於:一橋大学)。 また、「慰安所」を経験した女性の中でも唯一、「慰安婦」としての歩みが公開されている最初の朝鮮人「慰安婦」ぺボンギさんの足跡を調査した。この調査結果はソウル市女性家族政策室、ソウル大学チョンジンソン研究チームからの招待講演で発表した(2019年3月16日、於:ソウル都市建築センター)。タイトルは「沖縄の「慰安婦」そしてペボンギの話」で、ペボンギさんの戦後の収容所生活までの経験について発表している。さらに、海外で二冊の著書を出版した。韓国語では、沖縄戦場に動員された「慰安婦」や沖縄の女性たちが経験した沖縄戦から収容所までの戦争体験を分析した「沖縄戦場の女性の生と強姦恐怖」(『日本軍慰安婦問題と「真相」』収録、2020年)を刊行。英語では自著(『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』)の訳書"Comfort Stations" as Remembered by Okinawans during World War II (Leiden: Brill Publishers, 2020)を刊行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、沖縄人の収容所体験を実証的に分析しつつ、これまでの沖縄戦研究であまり注目されなかった収容所の女性体験の重要性を、カナダの事例と比較しながらグローバルに意味づけることを目的としている。 2018年度に続き、本年度も女性の体験中心に一次資料を分類し、データベース化を行いつつ、沖縄と韓国での現地調査、文献調査を行った。米軍政については既存の研究成果を踏まえて、沖縄諮詢会の会議録と沖縄県公文書館所蔵資料の「軍占領一般文書」の中の「性」政策関連を照らし合わせながら分析した前年度の成果に加えて、沖縄における「外」からの視線を取り入れるために、海外の先行研究の調査・分析を試みた。沖縄の最初の慰安婦として知られるベボンギさんのケースを含む、被害女性たちの沖縄戦での足跡を調査するなど沖縄の現地調査にも力を入れたのは、重要な成果であった。そのため、韓国でも数回における文献調査を行っている。なお、こうした現地調査を韓国のNGOやソウル大学のチョンジンソン研究チームなどと議論しながら行うことができた点は重要であった。国際的なネットワークを通して、研究発表はもちろん、共同調査を試みたためである。 米軍資料と住民体験を総合的に分析することで、沖縄戦における日本軍による被害と、米軍の占領下の沖縄における「構造的な暴力」(軍隊と性)を結び付けることが出来る。同時に、収容所にいた朝鮮の女性たちの体験をも沖縄の収容所研究に取り入れることが出来る。2019年度は、韓国や日本国内での研究発表を行ってきたが、沖縄での活動はまだ充分ではなかった。2020年度は、これまで収集・分析した一次資料をもとに、沖縄戦の収容所体験と日系カナダ人の収容所体験を比較分析し、沖縄やカナダでの研究発表を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
近年、北米だけでなく、中南米も含む日系人のあいだで、国際的あるいはトランスナショナルな連帯を確認しようとする動きが活発である。「戦時強制収容」の体験を、トランスナショナルな枠組みとして「リドレス(Redress movement 戦後補償)運動」に展開させようとする動きも起きている。 特に、カナダの場合、バンクーバーとトロント地域を中心に、日系とその他のアジアコミュニティとの連帯や「リドレス運動」が活発である。2020年度は、カナダの日系人の収容所体験との比較を中心に、研究成果の発表を行う予定である。特に、トロント地域には、アジア系と連帯しながら、旧植民地における「慰安婦」問題の解決に取り組んでいるALPHA(第二次世界大戦アジア史保存カナダ連合)という大規模なNGOが活発に活動している。その中心メンバーの日系カナダ人の調査を予定している。なお、ブリティシュ・コロンビア州のアジア図書館に附属するRare Books Special Collection(史料館)Japanese Canadian Research Collectionに含まれている収容所関係資料の収集も計画している。 しかし残念ながらコロナの影響が長引くにつれ、カナダでの現地調査や発表が遅れている。そこで、現在、Zoomなどを利用し日系カナダ人と学際的な交流を広めることを企画しつつ、日系カナダ人コミュニティーの協力を求めている最中である。今後はさらに、海外の事例との比較分析を視野にした研究発表に力を入れていく予定である。 2019年度は、韓国でも収容所研究分析に有効な資料を多く収集してきている。その成果を発表する。さらに、2019年度に刊行した英語版に続き、2020年度には自著の韓国語版刊行にも力を入れる予定である
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備考 |
著書の英語版についての紹介Webサイト
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