研究課題/領域番号 |
18K18300
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
洪 ユンシン 大阪経済法科大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (80751057)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 沖縄戦 / 戦時性暴力 / 収容所 / 慰安所 / 強かん恐怖 |
研究実績の概要 |
本研究は沖縄戦における「慰安所」から「収容所」空間をみた女性たちの経験を、多角的に考察するものである。 2020年度はコロナの影響で海外(カナダ・韓国)での現地調査や研究成果発表を行うことは出来なかったが、オンラインを通して国際シンポジウムでの発信をしてきた。まず、「連れて行った人々、帰れなかった人々、まだ終わらない戦争」という国際会議で、「動員/ 収容/強かん恐怖の島 ‐沖縄戦と朝鮮人」と題した研究成果を発表した。本会議は、韓国東北歴史財団、挺身隊問題対策協議会、戦争と女性人権博物館、日本軍「慰安婦研究会」による共同主催シンポジウムで、韓国、日本、アメリカの専門家が招待された。沖縄の「慰安所」から「収容所」空間の女性体験についての研究成果を発表している。(2020年9月19日) また、ソウル大学アジア研究所が主催しZoomで開いた国際シンポジウム「2000年女性国際戦犯法廷の公共記憶の拡散:植民地主義を超え未来世代に向けて」で、「せめぎ合いの場としての2000年法廷」と題した発表を行った。本会議は、2000年東京で開いた「女性国際戦犯法廷」の意義と課題について論じる国際シンポジウムで、申請者は本裁判が、朝鮮人「慰安婦」に限らず「日本人慰安婦」の経験に注目したことへの意義を述べると共に、沖縄から提出された裁判資料についての扱い方の問題について論じた。当日議論された内容はソウル大学アジア研究所から刊行される予定である。(2020年12月4日) なお、海外で「沖縄戦場の女性の生と強かん恐怖:「慰安婦」をみた人々」(『日本軍慰安婦問題と「真相」』収録、2020年3月)と題した論文を刊行している。本論文は、沖縄戦場に動員された「慰安婦」や沖縄の女性たちが経験した沖縄戦から収容所までの戦争体験を分析したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、沖縄人の収容所体験を実証的に分析しつつ、これまでの 沖縄戦研究であまり注目されなかった収容所の女性体験の重要性を、カナダの事例と比較しながらグローバルに意味づけることを目的としている。 2020年度はコロナの影響で海外への追加現地調査を行うことが出来ず、その間の研究成果を発表することに専念した。なお、インターネットで一般人向けの講演会や大学生向けの講演会で研究成果を共有したことは大きな成果であったと考える。沖縄の最初の慰安婦として知られる裴奉奇(ベボンギ)さんのケースを含む、被害女性たちの沖縄戦での足跡を調査するなど沖縄の現地調査にも力を入れた研究成果を「裴奉奇さんを記憶する人びと―植民地主義を生きる」(在日本朝鮮人人権協会 性差別撤廃部会主催、2021年4月23日)と題した一般講演を通して、国内に広めることが出来た。Zoomと共にyoutubeで配信されている。さらに、沖縄の「慰安所」や「収容所」での女性体験についての研究成果については日本や韓国の大学生向けの招待講演(日本大学2020年10月30日、東京外国語大学2021年1月12日、韓国・成均館大学2021年4月7日)を行っている。 2020年度は、沖縄県公文書館所蔵資料の「軍占領一般文書」の中の「性」政策関連文献を照らし合わせながら分析した前年度の成果の発表の場を、主に海外で行う予定であったが、カナダで予定されていた国際会議はコロナ影響で参加することが出来なかった。なお2020年度に集中して行う予定であった沖縄での現地調査もコロナの影響で行うことが出来なかった。 2021年度は、これまで収集・分析した一次資料をもとに、沖縄戦の収容所体験と日系カナダ人の収容所体験の比較研究成果をまとめて発表する場を、カナダや沖縄で行えるようにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
近年、北米だけでなく、中南米も含む日系人のあいだで、国際的あるいはトランスナショナルな連帯を確認しようとする動きが活発である。「戦時強制収容」の 体験を、トランスナショナルな枠組みとして「リドレス(Redress movement 戦後補償)運動」に展開させようとする動きも起きている。 特に、カナダの場合、バンクーバーとトロント地域を中心に、日系とその他のアジアコミュニティとの連帯や「リドレス運動」が活発である。2021年度は、カナダの日系人の収容所体験と比較したものを中心に、研究成果の発表を行う予定である。特に、トロント地域には、アジア系と連帯しながら、旧植民地における 「慰安婦」問題の解決に取り組んでいるALPHA(第二次世界大戦アジア史保存カナダ連合)という大規模なNGOが活発に活動している。その中心メンバーの日系カナダ人の調査を予定している。なお、カナダのブリティシュ・コロンビア大学(UBC,The University of British Columbia)のアジア図書館に附属するRare Books Special Collection(史料館)Japanese Canadian Research Collectionに含まれている収容所関係資料を収集も計画している。 しかし残念ながらコロナの影響が長引くにつれ、カナダでの現地調査や発表が遅れている。 2020年度に、Zoomなどを利用し日系カナダ人と学際的な交流を広める企画も行ったが、結局、カナダでのコロナの状況により日系カナダ人コミュニティー・ブリティシュ・コロンビア大学の研究者との連携を国際シンポジウムの形にすることは出来なかった。2021年度は、むしろ、沖縄での体験を中心としながら、カナダの事例をその中で紹介する形でのシンポジウムや、研究発表の場の企画に力を入れたいと考えている。さらに、2019年度に刊行した英語版のBookプレゼンテーションなども行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に、Zoomなどを利用し日系カナダ人と学際的な交流を広める企画も行ったが、結局、カナダでのコロナの状況により日系カナダ人コミュニティー・UBC研究者との連携を国際シンポジウムの形にすることは出来なかった。2021年度は、沖縄戦の収容所体験と日系カナダ人の収容所体験の比較研究成果をまとめて発表する場を、カナダや沖縄で行う予定である。
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