研究課題
本研究では、これまでドイツをフィールドに研究を行ってきた申請者の知見をもとに、ここ数年で大きく前進したドイツのジェンダー平等推進策を、1)国際的影響と基本方針、2)各施策と基本方針との関連、3)課題解決としてのICTへの期待、という3つの柱から体系的に見つめ直す。そのうえで、第4次産業革命(Industrie4.0)を背景に急速に進むドイツのデジタル化・ICT活用の状況をふまえ、ICTがジェンダー平等推進にいかなるインパクトをもちうるか考察する。あわせて、研究期間内に退任したメルケル首相が、EUを牽引する政権期間中に推進したジェンダー政策を俯瞰し、「グローバル化」に対峙する国家がジェンダー平等推進にどのように関わり、課題に真摯に取り組まなければならない理由を明確にすることも狙う。研究期間初年度(平成30年度)は、ドイツのワークショップでの発表、インタビュー、および文献・資料収集をとおして、ドイツの現状把握につとめた。2年目から4年目にかけては国内外での学会発表と論文執筆をすすめ、現在はそれらをベースにした書籍の刊行を目指している。これまで得られた主な知見としては、①1)と2)で言及した基本政策(主には第二次男女平等報告書:Gleichstellungbericht)が、ドイツの女性運動や施策と深く関連すること、②メルケル政権下のジェンダー施策推進には、EUの方針やW20などグローバル化の影響が大きいことがあげられる。加えて、コロナ禍により人々の交流の場がオンラインに急速に移行したことで、ジェンダーに配慮したリモートワークやSNS活用、デジタル暴力を巡って多様な議論が噴出しており、この動向も並行して追っている。このような状況は日本も同様である。そのためドイツの動向を追いつつ、3)のICT化が具体的にどのような影響を及ぼしているかは日独比較も視野にいれながら可能な限り追究する。
3: やや遅れている
コロナ禍のため、令和2年度以降に予定していた滞在研究を断念し、研究成果をもとに書籍の刊行を目指すことにした。①これまでの調査・研究の整理、および論文作成、②インターネットを活用した現地の最新情報の収集、③比較対象としての日本の状況の考察、の3点を中心にまとめる予定である。②③について補完する必要があったため、研究期間を1年延長した。
本研究をもとに書籍の刊行を目指す。これまでの研究でデジタル化がドイツ社会全体のみならず、ジェンダー平等推進の議論や女性運動にも予想以上に影響を及ぼしているのがみえている。研究初期に仮に設定した4つのカテゴリーのうち、3)労働、4)人材育成(教育)についてはとくに研究が進んでいる。1)法律についても、ジェンダー法学会での発表を機に、統一以降のドイツにおけるジェンダーに関する法の変遷を整理した。加えて、新政権の連立協定にはサイバーハラスメントやオンライン上の暴力(デジタル暴力)を巡って、EUの基準に則した規制の導入や法整備について言及がある。可能な限り最新動向を追う。残った2)ICTを活用した女性のエンパワーメントについては、政権交代が追い風になる可能性がある。これらを積極的に推し進めようとするショルツ新政権の連立協定(公約)を手がかりに、ここまでに収集したいくつかの具体的な事例に加えて、今後政府が力をいれようとするプロジェクト等をさらに探求し、コロナ禍の影響で断念した現地調査の補完を目指す。今後は、令和3年度より加わったAI社会におけるマイノリティの権利保障の追究(東京大学 BeyondAI推進機構)での活動の成果もふまえ、「ICT化」もしくは背景の「デジタル変容」「グローバル化」がジェンダー平等と女性運動に与える影響の体系化を、最終的には日独比較も視野に試みる。特に、Covid-19により、ジェンダー平等を求める市民の動きにも大きな変化がある。各国の女性政治家の手腕に注目が集まり、基本法(憲法)に記載があるポジティブアクション適用による、議会のパリテ(男女同数原則)の要求が強まり、介護看護教育等の女性の割合が多い職の賃金等待遇改善要求も活発化している。コロナ禍で後押しされたデジタル化が、こうしたジェンダー平等実現を目指す女性運動にどのような影響を与えるかも注目していきたい。
コロナ禍のため、令和2年度以降に予定していた滞在研究を断念、その分の費用を研究成果に基づいた書籍刊行の費用に充てる。
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21世紀社会デザイン研究
巻: 20 ページ: 57~71
ジェンダー研究 : お茶の水女子大学ジェンダー研究所年報
巻: 24 ページ: 57~65
10.24567/0002000110